彼のことが好きなんです。









いつも不機嫌にしている彼。

眉間の皺には苦悩という文字が漂ってる。

アニシナが羨ましい。

取り乱した彼を引き出せる唯一の女性だから。

「失礼します」

軍服に身を包んでいる身としては精一杯きちんと着こなし且つ清潔感溢れなければ。

扉を叩く前に頭の上から足のつま先まで確認してみる。

ノックをすると重低音な声が入室を許可するのが聞こえた。

「グウェンダル、書類をお持ちいたしました」

頼まれたのは医療施設からの書類。

最近この部屋に来る回数がやけに多い気がする。

「ああ、すまないな」

顔も上げずに礼を言われてアニシナならきっと

「これだから男というものはきちんと礼も言えないのですねッ!!」

と続けるだろう。

私にはそんな勇気もない。

彼の忙しさは魔王であるユーリ以上で。

右手にペンだこが新しく一個増えてたのも知っているから。

「では・・・・失礼します」

書類を置くと一礼して出ようとする。

そんな背中に声がかかった。

「待て」

「は?」

まだ何か、と振り向けば視線がかちりと合う。

「忙しくなければ二つ珈琲を持ってきてくれないか」

誰か客でも来るのだろうかと疑問を持つと見透かしたような答えが返ってくる。

「客は来ない。私と・・・の分だ」

一息入れるのに付き合ってもらっても構わないだろう?

その言葉にうろたえつつもはいと返事をして慌てて厨房へ向かった。

厨房には何故だかユーリとコンラッド。

「おう!。元気ー?」

「うん。何してるの?」

何故だか床に食材が散乱してる。

「ああ、気にしないで。どうしたんだ?」

コンラッドの言葉に用事を思い出す。

「グウェンダルに珈琲頼まれたの」

カップ二つと砂糖とミルク。

お茶菓子は?と厨房の人に聞けば満面の笑みで手渡される。

「グウェンダル閣下は素晴らしい方ですから様も是非す・・・・」

なんだか知らないけど慌てて止めに入ったコンラッドと他の厨房の皆さん。

私とユーリはただ呆れて見てるだけ。

「じゃあこの珈琲貰っていくね」

トレイに乗せてが走り去った後、ようやく閣下が動いたと涙ぐむ者数名。

コンラッドはユーリのどうしてだ?という問いに笑ってごまかしながら兄の恋路を応援していた。













「ここの書類だが・・・」

「ええ。この医療物資ではまだ足りないと思われるんです」

珈琲を飲みながら書類の話題。

こんな時くらい休めばいいのにと思うけれど眞魔国を思ってる深さでは上位に入ること間違いなしの人に言っても無駄かと諦めた。

「その・・・の好きな動物はなんだ?」

「動物ですか?」

いきなり変わったなと話題の転換に呆気に取られながらも答えを探す。

グウェンダルは小さい動物が好きなんだよねー。

「私は・・・豹が好きです。黒い毛皮で青い眼の」

目の前の男性を思わせるからとはいえないけど。

「・・・・・・そうか」

手はしばし脳内編みぐるみ製作中だろうかという位動いてた。

あ、今頭部分完成。

「今度私の城へ遊びに来ないか?」

美味い菓子がある、と言われて二つ返事で答えた。

「はい。ユーリとヴォルフも一緒にうかがいますね」

にっこり。

邪気のない笑みに心を癒される。

毒女にここまで荒らされていたのか・・・・というのが閣下の心の声だろう。

「い・・いや、そうではなく」

バターン!!

大騒音がして扉が開いた。

恐る恐る見れば扉の向こうに赤い影。

・・・・・・・・毒女参上。

「グウェンダルッ!!あら、もここにいたのですか。お久しぶり。私、素晴らしい発明をいたしましたの。

是非あなたのからだでためしたいのです」

もにたあというモノであろう。

「あ・・・私お邪魔ですね」

失礼します。

ぺこりと頭を下げて退出するの耳にグウェンダルの悲壮な声が聞こえた。

「いいなあ・・・・アニシナ」

毒女になろうかと真剣に悩むに待ったをかけるのはグウェンダルの言葉しかないかもしれない。