「グウェンダル!私の実験と魔族の繁栄のためにもにたあしなさい!」
幼馴染みというありがたくない地位を確立している赤い悪魔、毒女アニシナにご指名されたフォンヴォルテール卿グウェンダルはいつもより眉間の皺を一本増やした。
何ごとも話を聞かず推し進めるなど愚か者か専制君主でしかないとグウェンダルは常々思っていた。
だからいくらアニシナのもにたあの話でも話だけは聞いてみようとしたのだ。
本当ならそんなポリシーを今だけ箱に入れて直しておきたいと思ったのは致し方ない。
「なんの用だ、私は忙しいのだが・・・」
「よくぞ聞いてくれました!私が今回実験するのは陛下やにより明らかにされたある食べ物の実験です」
最後まで聞いてない、言わせてもらえないグウェンダルはアニシナの言葉の中に気になるフレーズを捕らえた。
「それはこれです!みーわーくーのチョコっとレイトショー。ナイトもアルヨ、お熱いのがお好き、です!」
やけに間延びした口調に差し出された物体。
板のように見える。
「なんだこれは」
「だからチョコっとレイトと言ったでしょう!陛下との話によると貰うと嬉しくて食べるのが美味しいそうです」
ちなみにユーリは貰ったことはおふくろ以外にないけどなーと苦笑していた。
「なんでもオカカ百%と言って一人の母親が作るモノのようですね」
制作協力者はアンフリンだったりする。
「そ、そうなのか」
「そうなのです」
口許に食えとばかりに押しつけられたチョコっとレイトとやらを観念して口にする。
唯一の望みは優秀な秘書が作った事実だけだ。
「まあ、アンフリンだけでは心元なかったので私も手を加えさせて貰いました」
グウェンダルの希望はあっさり費えた。
チョコっとレイトとやらは酷く苦かった。
そうかつて幼い時にアニシナなに実験と称して食べさせられたセリドクナズドンペレの実くらいには。
「・・・・・じだがじびれ゛だ」
麻痺したように舌が上手くまわらない。
「おかしいですね、このチョコっとレイトは舌が寸暇を惜しんで回転し美辞麗句を吐き続けしまいには歌舞伎町の頂点に上り詰めるという代物ですが」
ふむ、とアニシナはその細くて白い指を顎に寄せた。
「効果がないようですね。よってこれは失敗です!」
幾万回聞いたであろう台詞を聞いたグウェンダルは溜息を吐きたかったのだが舌が動かずできなかったのだった。
「・・・・だい゛ぶよ゛ぐなったな゛」
アニシナが魔導装置何処でも空間移動筒路から帰って暫くした時に事件は起きた。
「グウェンダル閣下!書類をお持ちしました」
その兵士は不運だった、としかいい表せない。
「そうか。ご苦労、其処に置いて近くへ来なさい」
招きよせられた兵士は雑用が主となりつつあるダカスコスだった。
「はい・・・・って閣下!グウェンダル閣下!何故閣下は俺っ・・いや、私の頭をそのように撫でるのですかぁ!」
しかも見つめる目つきは蕩けるようだ。
はっきり言って睨まれている方がまだマシだ。
半分泣きが入った声で聞けば艶のある重低音が返ってくる。
「何を言っている。この肌、ぴっかりと言った光具合・・・素晴らしい。私のコボタルイカちゃんダイジョブでちゅよー」
撫で撫でと徳の高い僧の如くなでられては逃げ出したくて仕方ない。
其処へと魔王陛下であるユーリとグウェンダルの弟でユーリの婚約者のヴォルフラムが入ってきた。
「・・・・・・・な、何をしているのですか、兄上!?」
呆然自失の態からいち早く抜け出したヴォルフラムはキャンキャンと尊敬する長兄の奇異な行動に口を挟んだ。
その隙にとばかりにダカスコスはグウェンの魔の手から逃げ出した。
雑用兵士にしてはかなりいい判断だ。
「しっ・・失礼しますっ!!」
「えーっと・・・も・もしかしてグウェンってばそっちの趣味!?ていうかダカスコスに手を出したらアンフリンさんが怒るよ?」
まだパニック真っ最中なユーリが訳わからないことを口走る。
「何を言っているんだ。私のポメラニアンちゃんと黒い毛並みが美しくくりっとした瞳が可愛らしい小栗鼠ちゃんは」
もう何処から突っ込んでいいのかわからない。
僕はポメラニアンなどではありませんと騒ぐヴォルフに小栗鼠に黒はないだろーと突っ込むユーリ。
「だいじょうぶでちゅよー!怖がらせたりはしまちぇんからねー!、そこの書類を取ってくれないか?」
「あ、う・・・うん」
はただ呆然とグウェンがヴォルフをハグしてぐりぐりと撫で回す姿を見つめている。
「え・・にはないの?小栗鼠ちゃんとかさぁー!?」
「・・・・・何を言っている。小栗鼠ちゃんはいい子で向日葵の種でも齧っているんでちゅよー」
「ていうか向日葵の種はとっとこだろ!?つーかこれ柿の種じゃん!?」
は暫くグウェンダルを見つめていたがユーリとヴォルフをグウェンダルの腕の中に残して部屋から立ち去ったのだった。
グウェンダルの部屋はそんなわけで第一級危険地帯へと変貌した。
ギュンターは白うさちゃんだったしコンラッドはライナちゃんだった。
メイド達に見せるにはあまりに不憫とユーリとコンラッドとギュンターによって緊急措置が取られなければ小鳩ちゃんやら小狸ちゃんやらが増え続けたことだろう。
「どうにかならないのですか、あれは」
ぐったりとしたギュンターが言った。
「難しいな。何かダカスコスの話だとアニシナに食べさせられたという事だからもう少し時間を置くのが一番じゃないか?」
一応骨飛族と飛べ飛べ白鳩便でアニシナのいるカーベルニコフ領へ連絡は取った。
「あんなの・・・・兄上だ・・・・」
じゃないと言いたいのだろうできない弟に苦笑しつつコンラッドは何でだろうかと疑問を考え続けていた。
「、その書類はギュンターの所だ」
「わかったわ」
第一級危険地帯へ足を踏み入れることのできるのはだけになってしまった。
此処がコンラッドが不思議に思う所以である。
普段なら華奢で美しいを愛しているグウェンダルが今日の壊れている時点で彼女にだけは普通だという事実。
むしろ普段よりそっけないように思えるのは気のせいだろうかと考えた。
「ねえ、グウェンダル?」
誰もいない部屋ではそっと名を呼んだ。
「なんだ?」
「・・・・・・大好きよ」
明日はバレンタインだしとちゅっと頬に落とされたキスに目を見開いて固まる事暫く。
アニシナがその日の午後にまた魔道装置何処でも通り抜け筒で到着した時にはすっかり元に戻っていたらしい。
「ーどうやって戻したんだ?」
「それはねえ・・・」
「ユーリ!仕事をしないか!はこっちだ」
ユーリが聞こうとしてもグウェンダルに邪魔されて結局はあやふやなまま。
翌日のバレンタインの時にが渡した子猫ちゃんチョコレイトを眺めて嬉しそうに笑う閣下の姿に眞魔国の一同がほっとしたのは言うまでもない。
そのチョコレイトは食べられることなく彼の一番上の机の引き出しに長いこと仕舞いこまれたのも彼しかしらない秘密である。