眞魔国はその日もよく晴れていた・・・エンギワルー
「今日もエンギワル鳥がよく鳴いているわね」
俗に極楽鳥と呼ばれる鳥が姿を現したのはつい先日のことだった。
26代魔王陛下のツェッツェリーエ・・・ツェリ様が退任してからというのは皮肉なようにも思える。
極楽鳥が賢帝の御世に鳴くと言われているのは戯れ言の流言流布だと知りつつも、だ。
「次代の魔王陛下はどんな方かしら」
形のいい口唇に笑みを浮べてはそっと微笑んだ。
彼女は魔族の中でも十貴族に連ねられるカーベルニコフの血縁者だ。
詳しく言えば毒女こと赤い魔女、赤のアニシナと年々異名が増える眞魔国三大魔女アニシナの従姉妹だったりする。
現在は仲の良かったスザナ・ジュリアの死によって三大魔女の座の一つが空白でそれに名を挙げられているのが
フォンクライスト卿ギュンターの養女こと鬼軍曹のギーゼラか・・・自分だと言われている。
自分の名がギーゼラと挙がっているのが面白いと思うがその理由が自分の恋愛嗜好に関わっていると聞いた時は眉を顰めたものだ。
「・・・どこかに理想の人はいないのかしらね」
桃色の口唇からは憂いの含まれた溜息が上品に漏れたのだった。
フォンヴォルテール卿グウェンダルが可愛いモノ好きなことは眞魔国では公然の秘密だ。
彼はとても魔族と民の事を考えていて彼が決定することは間違いはないと思わせる仕事のできるいい男だ。
いつも国と民の為に彼が国務に励んでいることを知らない者は血盟城には殆どいない。
そしてそんな彼は皆に愛されている。
ちょっと下手なあみぐるみの製作趣味を見てみない振りをする程度には。
「グウェンダル閣下!アニシナ様からのお手紙が届いてます」
「・・・置いておけ」
腰にくるイイ声で命令してもアニシナという文字の毒は兵士を動かしは出来なかった。
「僭越ながら・・・裏に即刻読むように注意書きがなされております」
グウェンダルが毒女アニシナの第一番の被害者でもにたあとして日々秘密の地下室で拷問紛いなことをされているのも知っている兵士は顔を青褪めつつ差し出した。
魔力が乏しい自分には到底身代わりにはなれない。
いや、謹んでご遠慮したい。
いつも無事と言えないながらも奇跡の生還する目の前の上司に心の中で尊敬の眼差しを向けつつ封が切られるのを待った。
・・・しかしその手は動かない。
「あら、私が開けて差し上げましょうか」
ふわりと空気が動いて微香がそれもとてつもなくいい香りがした。
兵士の視界を横切った女性は背の高く美しい女性だった。
もしかしたらツェリ様とギュンター閣下と張る位には。
彼女はグウェンダル閣下の幼馴染の一人だ。
「か。いや、いい。多分というか絶対もにたあかもにたあかもにたあか・・新王陛下のことだろう」
ほぼもにたあ決まりなのねとツッコミはその場の誰も入れられない。
こんな美女を前にして眉間に皺は取れないのかと思ってしまった兵士だが上司の指が封を切ったのを見て退出した。
「アニシナだものね。新しい陛下ってどんな方かしらね」
にっこりと笑う姿にグウェンダルはむ、と口の端を歪めた。
「コンラートの話だとユーリ、というらしい」
「そう・・・ユーリ。良い名だわ」
夏生まれなのねと呟くともう一度口の中で呟く。
ユーリ。
良い名だわと心から思った。
品が良くて可愛らしい。
本人もそうあって欲しいものだ。
「・・・お前はまた別れたのか」
「あら、情報が早いわね」
グウェンダルの問いには窓辺へ向けていた視線を机に座っているグウェンに戻した。
「別れた理由は?」
「さあ、私はそんなつもりは全くなかったのだけどいつものよ」
「・・・いつものか」
そう、つい先日二週間という交際期間に初めて辿り着いた恋人が
『僕は貴女に相応しくない・・・っ』
と"いつものように"泣きながら去ったのは昨日のことだ。
「私の何処がいけないのかしらね」
長続きして二週間。
昨日までの栄光だが。
ふうっと溜息をついた憂い顔の美しい幼馴染にグウェンダルはゴホンと咳払いをした。
こういう時はどう慰めて良いかわからなくなる。
小さくて可愛いモノが好きなはずなのにその女性にしては高い背丈の身体を抱き寄せてゆっくりと息をつかせてやりたくなる。
「・・・なぜだ?」
小さく問われた呟きは小さすぎてには届かない。
そして彼自身の答えにも。
「あら、ヴォルフラム。今日もとっても麗しいわ」
クスクスと笑いながらそっと襟元の乱れを直してやる。
「・・っ!僕はもう子供じゃないぞ!?」
真っ赤になって怒る姿にまあ可愛いと花のような笑顔を向けた。
グウェンダルの眉間の皺が1本増えた事にも気付かずに。
「あら、ヴォルフったら。そろそろ私の恋人になってみない?貴方ならきっと楽しいわ」
「また別れたのか」
ヴォルフラムがちらりと尊敬する長兄を見たことを不思議に思いつつは頷いた。
「どこかに居ないかしらね。可愛らしくて顔を汗で汚すような健康な元気な方って」
スポーツしている方もいいわねと笑っているこの麗人の視界に尊敬する兄が入らない理由を改めて聞いたヴォルフラムは兄に同情したのだった。
「まあ、ユーリ陛下ったらとっても可愛らしいのね」
嬉々としているの姿にグウェンダルは眉間の皺を深くした。
嫌な予感がしたのだ。
あの少年が馬から落ちた瞬間に。
黒髪黒瞳の双黒に愛らしい容貌。
男ながらにも可愛らしい小型犬を思わせる。
へらりと笑った時はつい頭を撫でてやりたくなったのも事実。
そしてなんと彼は口だけならやんちゃ系だった!?
のタイプど真ん中だ。
彼女ほどの美貌なら新魔王陛下の寵愛を受けてもおかしくはない。
どちらかと言えば寵愛されるのは奴の方かもしれないが。
しかし彼はヴォルフラムに婚約をしてしまった。
取り消すのは容易だったがグウェンダルはあえて取り消させようとはしなかった。
魔王の力を試すために。
そして彼女の反応を見るために。
「そうだな。だが奴はヴォルフラムに求婚した」
「・・・・・・」
沈黙が下りた。
俯いたの肩。
僅かに震えている?
「泣いて・・・いるのか?」
そっと、・・・そっと躊躇いがちに手を伸ばせばガシリと手を掴まれた。
「ねえっ!?グウェンは?グウェンダルはどう思ったの?」
その瞳には何処か切なげな色。
「あ・・・ああ。まあ、姿形は見目よいな」
「・・・そう」
またしても項垂れたのいつにない様子に声を掛けようとした。
「・・・どうしたというのだ」
この憂い顔を目の前にそわそわと落ち着かないのは大事な友人だからだと言い聞かせる。
その折れそうな細い肩を抱き寄せて瞳に浮かんでいるだろう涙をそっと掬い取ってやりたいと思うのも。
「ごめんなさい、取り乱して。でも今なら婚約解消もできるのではなくて?」
そっと囁かれた言葉にドキリとする。
確かにできるだろう。
ヴォルフラムが乗り気な婚約だが新魔王にとっては手違いだったのだろうから・・・多分。
「そんなに気になるのか?」
自分の声とは思えないくらいの情けない声だった。
どうしてこんなに胸が痛いのだろう。
彼女が、が新魔王を好きだから?
グウェンダルの中の葛藤も露知らずはそっと微笑んだ。
まるで自分の愚かさを嘲るように。
「だってグウェンが婚約しちゃったら・・・今までみたいに居られないでしょう?」
の言葉が予想外でグウェンダルの瞳は大きく見開かれた。
誰が、誰と、婚約!?
「な・・何を言っている!?」
「だってユーリ陛下ったらとってもお可愛らしいし貴方は可愛い物好きなら眞魔国一だし」
「・・・そんなことはない・・・多分」
強く否定できないのは自覚症状があるせいか。
けれどなんだって自分と新魔王の婚約に繋がるかはさっぱりわからない。
とユーリではなくて???
「大体私は男と婚約するつもりはない」
それがどんなに愛らしくともと言えば花のような笑顔が戻った。
「よかった」
よかった?なんで!?
グウェンダルの中での疑問が聞こえたかのようにはにっこりと極上の微笑を浮かべて言った。
「私、グウェンダルが好きみたい」
ぐらり
その日グウェンダル閣下が寝込まれたことは眞魔国でのトップシークレットとして秘密裏にされその三日後に婚約発表がなされたのだった。
次男と三男と陛下の会話。
「なーヴォルフ。ってばやんちゃ系っていうの?可愛くて永遠の少年みたいなのが好きだったんだろー?」
「そのようだな」
「じゃあさ、なんでグウェン?」
「の話だといつまでも男の人は少年よって母上に説得されて自分の本心に気づいたらしい・・・」
「ツェリ様かーなるほど」
「今、命が惜しければ兄上の部屋には行くなよ。ユーリ」
「なんで!?」
「グウェンがもの凄くに甘やかされている所を目撃ドキュンしちゃうからですよ、陛下」
「陛下って呼ぶなよ、名付け親ー・・・・って甘やかされてるんだーグウェン」
「はい、ユーリ。私もの恋路を今までちょっと邪魔した甲斐がありました」
「全くだな」
「なになにっ!?のお付き合い期間が短かったのってそういう理由かよ!?」
「全くグウェンが鈍いから参りましたよ」
「五月蝿いぞ!?兄上は単に・・・自分の気持ちに気づかなかっただけだっ!」
「ヴォルフ・・・それってフォローになってないじゃん・・・・」
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あとがき
睦月莉音さんに相互リンク記念で押し付けさせて頂きました。
リクは「グウェンダル夢で可愛いもの好きなのにタイプ外の女性を好きになる閣下」でした。
まずは莉音さんごめんなさい。
ゴージャス美女設定はともかくやんちゃ系好きヒロインになってしまいました。
間の兵士登場と最後の会話が一番楽しかったのは内緒です。
返品可ですのでー(土下座)