「どうしてこんなことになったのだ・・・・」
彼の呟きに殆どの者は同情するより先に羨むだろう。
つい先日不覚にも倒れてしまったグウェンダルは寝台の上で一人ゆっくりと考えたかった。
自分の好きになった女性についてとか彼女の好きな、いや好きだと思われていた異性のタイプと自分がかけ離れていることとか。
ついでに何故現在自分は彼女、の手厚い看病を受けているのだろうかとか。
を前にするとちっとも自分が冷静になれないことだけは理解できた。
「はい、グウェンダル。貴方のためにウサギさんにホホナカトルの実を剥いたわよ」
差し出されたのは見事なウサギ形の果物。
眞魔国王家ご用達先割れスプーンを刺すのが惜しいくらいに見事な出来だ。
しかし愛しいひとの笑顔付きで差し出されたら男としては食べないわけにいくだろうか、いやいくまい。
「すまん、うさちゃん」
小さく呟いてグサリと突き刺した。
可愛らしいウサちゃんをモグモグとかみ締める。
「どう?美味しい?」
小首を傾げて覗き込む姿はとても愛らしい。
普段あんなにも堂々とした態度からは想像もできない姿に首が取れそうなほど上下に振って頷いた。
「そう、よかった」
「・・・・その、なんだ。はいいのか?」
ごくんとウサちゃんは嚥下されて行きずっと思っていた疑問を口にする。
「何が?」
もう手をつけれないウサちゃんは乗せられた皿ごと彼女の手によってサイドテーブルへと下げられてポスリとその細い身体はグウェンの寝台へと腰掛けた。
「いや、だからその、新王陛下のことだ」
確かに倒れる前には彼女は自分のことを好きだと言ったが一時の気の迷いということもある。
甲斐甲斐しく世話をしてくれたのは嬉しかったがどう考えても自分は無骨なまでに成人男性だしよく育ったほうだろう。
どう考えても彼女の嗜好に沿うとは思えない。
「ユーリ陛下?彼がどうかしたの?」
いつもなら一で十を悟るまでは行かずともかなりのことを悟ってくれる彼女に伝わらないのだ、多分自分が悪いのだろう。
ちゃんと言葉に直すことにした。
「は奴のようなのが好きだと思っていたのだが」
返事が怖くて少しだけ視線をずらす。
肯定の言葉を聴いても心が壊れてしまわぬように。
「ええ、でも私気づいたの」
何に?と聞く前にそっとグウェンダルの頬に添えられた手のひら。
上を向くように持ち上げられて交わる視線。
「ある方にね男の人はいつだって少年の心を忘れないものよって教えて頂いたの」
綺麗な綺麗な微笑みはずっとグウェンダルが向けて欲しかったものだった。
「そしてね、貴方の好きな可愛らしい人には自分はなれないって思い込んでたのね、私」
桃色の口唇が夢のような言葉を紡いでいく。
「大好きよ、グウェンダル」
にっこりと微笑まれてグウェンダルは完敗だとばかりにそっとその愛しい美しい人を抱き寄せた。
その後速やかに婚約発表がなされたのは言うまでもない。