風邪を引いた。
頭が痛い。
お腹も。
グウェン曰く
「腹を出して寝るからだ」
・・・・・って私のお腹見たのっ!!
と言えば
「見えただけだっ!」
って顔を真っ赤にして否定したけど。
見たのに代わりはないじゃない。
グウェンダルに添い寝をしてもらうのは眞魔国に来たらお決まりのパターンになっている。
こんな広い部屋にはどうしても慣れないから。
最初はキャミソールと短パンという楽な格好で寝ようとしたら嫌がられて仕方なくグウェンのシャツを一枚貰った。
奪い取ったっていう表現のほうが正しいかもだけど。
だから今のパジャマはグウェンのシャツ。
熱のせいか汗で気持ち悪いんだけどね。
可愛らしいひよこちゃんタオルケットだけでは眞魔国の秋の訪れ、朝の冷え込みには些か心もとなかったらしい、と布団に包まり思う。
というか原因は彼にあると思うんだけど。
そんな早朝から広いベッドに私一人を残して仕事を始めるから寒くて風邪を引くんじゃないか!!
「グウェーン、お腹へったよー」
「ああ」
ぴーぴーと親鳥を呼んで餌を強請るヒナのように甘えれるのも小さくて可愛いモノが好きな彼にはALL OKだから。
今の私が(丸まって)小さくて(熱のために)か弱い者という評価のせいか。
背中に大きな手が回されて身体を起こされる。
額にひやりと触れるグウェンの手のひらから彼の優しさが伝わってきそうだ。
「ウサギさんだ」
目の前に差し出されたのは白いお皿の上にきちんと並んだ林檎に似た果実。
見事なウサギは多分マイド・イン・グウェンダル。
フォークでなく魔族王族御用達の先割れスプーンで突き刺すのは気が引けるほどの見事さなんですけど。
グサリ!
さっとグウェンの視線が逸らされたのに苦笑しつつもぐもぐと租借する。
「まいどー」
ついつい言ってしまうんだよねとウサギ型の果実を食べてスプーンを置く。
喉が痛くないのが今回の風邪の良かったところか。
グウェンに気兼ねなく我儘を言えるから。
「もういいのか?」
皿に残されたウサギさんと私を交互に見るグウェンダルに頷く。
「うん。勿体無いから後で食べる」
本当は食べさせて貰いたかったなあなんて甘えた事を思いつつあの調子では無理だなと諦める。
元気になったら苛めて遊んでやる!
へらりと笑った私を熱が上がったのかと心配そうに覗き込むグウェンダルに腕を伸ばす。
「・・・・、私はまだ仕事がある」
「けち」
甘えてるなあと思うのだけど熱で浮かされた頭は思ったままのことを口にしてしまう。
広いベッドは嫌だとかグウェンダルが側にいて欲しいとか私が起きるまで側にいてよ、とか。
気がついたら口元を手で隠してるグウェンがいて耳が赤いのに気付く。
「ね、グウェン。お願い」
ポンポンと自分の隣を叩いて意思表示する。
・・・・・・・・・・・まだデスカ?
あまりにも遅い行動に溜息が出た。
「わかった、じゃあコンラートと寝る」
むくっと起きるとくらくらと貧血。
スリッパも探せそうにないよと考えていたらベッドに戻されてた。
「グウェン?」
「黙って寝ていろ」
頭上から落ちてくる渋々といった声にごめんねと小さく謝って温かい腕の中、風邪を治すべく睡魔に身を委ねたのだった。
風邪完治後。
「どうしてコンラートなんだ?」
グウェンの部屋のベッドで寝ようとしていたら聞かれた。
手にはしっかりグウェンダル特製のぬくぬく編みぐるみのクマハチ。
「コンラート?」
「だから一緒に寝る相手だ」
ユーリでもヴォルフでもなく何故という問いにはああ、と答えた。
「だってユーリに風邪を引かすとギュンターが怖いしヴォルフって寝相悪いしね。コンラートなら軍人だし風邪も引かないかなーって」
ヨザックでも良かったけどねーと笑うに眉間の皺が深まるグウェンダル。
「でもグウェンが一番だよ?」
それが何?と首を傾げて問いかける少女に閣下の眠れない日々はまだまだ続きそうである。