地球に咲く何十属何千種何万株の菫よりも彼の瞳のほうが美しいと息を吐いた。

美形ぞろいの魔族とはいえ彼以上はそうそういないと思う。

個人の趣味でなく一般意見。

決して恋人の欲目ではない、と思う。

王佐をこなすくらいだから頭は良いし剣も強い。

これで汁さえなかったら近寄れもしない美形決定なのだが。

「ギュンター、汁出しながら書類決済するなら私は向こうへ行くわ」

グウェンに頼まれ婚約者を“なんとか”せねばならないから仕事をこなす傍にいたが

汁を垂れ流している所を見続けたら結婚を取り消そうかと思ってしまう。

「止めるなら今のうち、ねぇ」

「なっ!汁はもう出しません、仕事もほら終わりますからっ」

ぽーんと決済印を押す彼を見てはぁと溜息を吐く。

「やっぱり明日の結婚止めようかしら」

ぽつりと呟いた言葉はギュンターにぐっさりと刺さったらしい。

「なっ・・・何故ですか、っ!私の何処が気に入らないというのですー」

「汁垂れ流すトコ」

「うぅっ」

正直に答えたら反論はなかった。

実際今も瞳から涙を流してる。

これが一筋程度なら色気を感じるだろう。

何歩か譲って滝の流れのような涙でも涙だけならまだ、いい。

問題は鼻水、汗、鼻血辺りだ。

「ギュンターの顔が好きな私には汁を垂れ流しているギュンターは許せないのよね」

そっと乱れた髪を直してやると涙で濡れた瞳で見上げてくる。

・・・・これで汁さえなかったら。

「式の時に貞節は誓わなくていいから汁を垂れ流さないと誓って頂戴」

「そんなっ」

ギュンターの表情が青くなる。

自分でも難しいと自覚済みなのだろう。

「じゃないと私、髪切るから」

「ヒィィィー」

ギュンターたっての頼みで髪を伸ばしていたが元来あまり伸ばしてた経験のないには短いほうが楽なのだ。

「わかりましたから!誓います、眞王陛下と漆黒の賢者様とユーリ陛下に誓います」

慌てたギュンター。

黒髪フェチは伊達ではない。

「私には誓ってくれないの?」

菫色の瞳を覗き込む。

大好きだからいつも格好よくあってほしいと願うのだ。

たまに取り乱した彼も好きだけど。

「ちっ・・誓いますとも!」

「よくできました」

ちゅっ

音をたてて頬にキスをすれば慌てて鼻を押さえるギュンター。

「こ、これははなひひゃはりはへんはらっ」

執務室から逃げ出したギュンターにこれで明日の初夜は大丈夫なのかしらと溜息を吐いて

残された書類に決済印を押したのだった