不機嫌そうな新郎は入ってきた花嫁を見て表情を緩ませた。

ほんの僅かに、ではあったが。

深い海のような瞳に映すのは彼を捕えた異世界からの少女。

小さくて可愛らしいのに誰よりもしなやかに強い少女。

初めてあった時自らを見上げ言葉が通じないながらも涙を堪えた様子に

わけもなく腹が立って睨み付けた。

ばちんと叩かれた頬の痛みより黒髪の下から覗いた強い意志の光を持った瞳に魅せられた。












ドレス姿をよく見せてくれと膝のうえに抱き寄せて甘えてもいい、いや甘えてほしいと頼むと

肩に頬を寄せてくる暖かい温もりに腕をまわす。

さらさらの髪は留めるのが難しい程でグウェンダルが結ってやるのが日課になった。

些細な時間がひどく愛しい。

内輪の二人だけの式を望んでいたのだが魔王であるユーリに国民をあげての一大イベントにされた。

「だってグウェンダルもを自慢したいだろー?」

あっさりと言い放たれた言葉に確かにと考えた。

美しく着飾った彼女を他の男に見せたくはないが自慢はしたい。

矛盾を自覚しつつ続く言葉に決断した。

「それに結婚は女の子の夢だもんなー」

そうなのかと思い当たる節がないわけでなく母親にも手を借りて自ら進んで見せ物になることにした。

誰よりも愛しい彼女のために。














「グウェン?」

そっと囁きに我に返る。

いつのまにか自分は美しい花嫁に見惚れていたらしい。

「綺麗だ」

いつもは言わない、言えない言葉さえするりと零れるのはその装いが自分のためだからか。

「ではフォンヴォルテール卿グウェンダル。貴方は彼女への愛を誓えますか?」

「眞王と父母、祖先と自らの名に誓う」

式をすすめる古の賢者の記憶をもつという少年は視線で花嫁に問う。

「誓います」

震える声に愛しさが募る。

ヴェールを上げれば涙の浮かんだどの宝石にも勝る一対の黒曜の瞳に自らが映っていた。

愛してると呟きながら合わせる口唇。

ざわざわと騒めく観衆の中にはユーリ達の声も聞こえる。

「グウェンダル、ありがとう」

式の後に嬉しげに微笑まれて花婿は見せ物になった甲斐があったと心の中で安堵した。











「・・・何故初夜まで仕事をせねばならんのだ」

書類が大量に積み上げられた机にむかってつぶやく姿が恋に破れた男たちの唯一の仕返しだったことと

花嫁はすやすやとあみぐるみを抱いて夢の中だったことをここに記しておく。