「その・・・・・・・・・聞きたいことがある」

「何?グウェンっ!!顔真っ赤だけど熱でもあるんじゃないかっ!!」

それが始まりの幕開けだった。






















「ジングルベール、ジングルベール、鈴がなる〜」

ご機嫌に鼻歌を歌いつつ大きな木の飾り付けをしているのは眞魔国の魔王陛下の故郷から来た双黒の少女。

艶やかな髪は今は一つに束ねられていてくるりと器用に上げられている。

「お嬢、ご機嫌ですね」

梯子を支えていたヨザックは少女の様子に声を掛けた。

双黒というだけで十貴族の地位と名誉を与えられる少女はこれまた気さくな人柄で陛下に負けず劣らず可愛らしい。

「だってこっちでクリスマスなんてできないと思っていたから」

今はヨザックが切り倒してくれた木を大広間の真ん中に据えて飾りつけの真っ最中。

お嬢の頼みなら閣下は月だって取って来てくれますよ」

「何か言った?ヨザック?」

「いいえー何も」

この少女と陛下のためなら自分だってなんだってしてみせるだろうなあと心の中で思いながら。

!これでいいのかっ!!」

扉から姿を現したのはヴォルフラムだった。

「言われた通りお菓子を詰めたぞ!足りない分は飴にした。これからユーリと飾り付けるが何か注文はあるか!?」

ユーリも後ろからよたよたとやってきた。

「疲れた〜ってクリスマスツリーじゃん!やっぱクリスマスはツリーだよなあ」

「ユーリ?用意は済んだの?」

一番上に乗せる星を残して梯子からひらりと降りた少女にユーリは笑った。

「ギュンターとコンラッドがしてくれてる。衣装はギーゼラが。俺はあとこの飾りつけだけど」

後ろからダカスコスが大きなソリを持ってきた。

アニシナ作の「軽くて夢みたーい」号の試作品だ。

その割には重そうに見えるのはなんでだろう。

「じゃあ可愛らしくラッピングね。でコンラッドは?」

「俺のこと呼んだかな?」

「おわっ!!何処から現れんだよっ・・・ってそれ衣装?」

足の長すぎるサンタがいた。

「・・・・・・・髭似合わないわね」

「あははははははっ!ウェラー卿、よく似合うぞ!!」

ヴォルフラムは兄の姿に大爆笑だ。

着々とクリスマスの準備が整いつつある。

「ユーリが星を飾ったら終わりよ」

差し出した星を受け取って俺が?といいつつ飾る姿に皆が微笑む。

陛下の判断にこの国の未来を委ねているのだから。




















「これでできたっと」

鏡で変な所がないかチェックする。

「お綺麗ですよ」

着替えを手伝ってもらったギーゼラに褒められて頬を染めた。

「ギーゼラもドレスを着ればよかったのに」

ギーゼラは相変わらず軍服だ。

「私は今日は夜勤なんです。それにドレスはあまり好きではないので」

「私だって綺麗だと思うけど・・・・こけそうでねー」

裾を踏みつけて転倒しませんようにと祈ってるにギーゼラは笑う。

「早く行かないと閣下がお待ちですよ?」

「グウェンが?」

わかっていない様子に笑いを零しながらギーゼラは愛すべき友人を部屋から追い立てたのだった。

コンコン

「開いている」

朝からの騒ぎで残っていた仕事を合間にしていたグウェンダルは顔も上げずに言った。

「グウェン?・・・って仕事してるの?こんな日まで!」

「・・・・・・か」

声に顔を上げて絶句する。

「えーっと・・・そんなに似合わないかな?」

馬子にも衣装くらいは言って欲しいんだけどと苦笑している少女に気付いて我に返る。

「いや・・・よく似合っている」

本当に良く似合っていた。

グウェンダルが送ったピンクのドレスは袖とスカート部分が薄い紗で幾重かに重ねられているデザインでの愛らしさを引き立てている。

日頃は化粧のしていない顔に薄く紅を引かれていてとても艶めいて見える。

髪も結い上げられていて黒髪と項の白のコントラストが美しい。

「グウェンダルもカッコいいよ」

今日はいつもの軍服ではないんだねと笑う。

紺色の軍服に似た造りの服は姿のいいグウェンダルによく似合っていた。

「じゃあ行こうか」

「ああ、そうだな」

二人は仲良く連れ立って待っているであろう人々の下へと足を運んだ。














にグウェンー!こっちこっち!!」

人込みに囲まれていたユーリが目ざとく見つけて声を掛けた。

ぱっと蜘蛛の子を散らすようにいなくなるのは当代魔王陛下に世辞でもって近づいてくる貴族たちだろうか。

「メリークリスマス!」

差し出されたグラスを受け取る。

「ありがと。これはお酒・・・じゃないみたいね」

「んー、どこかのジュースとか言ってた様な・・まあノンアルコールだから」

「グウェンダルは少し飲めばいいんじゃないか?」

隣にいたコンラッドが差し出したグラスには葡萄酒だろうか注がれていた。

「乾杯」

カチンとグラスを合わせて飲む。

「あ、美味しい」

「だろ?あ、グレター」

ユーリは可愛い娘を見つけて走り去った。

「落ち着きのない」

「ふふ、クリスマスだし大目に見てあげたらいいのに」

グウェンダルを引っ張ってツリーの下へ行く。

「綺麗でしょ」

「ああ。っ!そっちはっ!!」

え?

呼び止められた瞬間に抱きとめられた。

「・・・・・・宿り木というモノがあると言いたかったんだが」

二人して狙ったかのように宿り木の下。

しかも大広間の陰になっている。

「・・・・口付けてもいいか?」

「グウェンならいいよ」

にっこりと笑って降ろされた瞼にキス。

「・・・・・・・えーと、グウェン?」

瞼を開けたの視界にはどんな技を使ったものかグウェンダルは忽然といなくなっていた。















「全く、閣下ってばどうしてこう奥手かねー。あんな可愛いお嬢に手も出さないなんてグリ江信じらんなーい!!」

物陰からこっそり二人を見ているのは女装しているヨザックことグリ江ちゃん。

ドレスからはみ出した上腕二頭筋が目に痛い。

と、ウェラー卿コンラッド。

「そういうなよ。グウェンは純情なんだから」

笑いを噛み殺しつつキスとも言えないキスの後の逃げ足の速さに爆笑したくて堪らなそうだ。

「折角隊長が宿り木なんてものまで付けたのにねえ」

こっそり耳打ちしたのはヨザックだが。

ま、これも眞魔国らしいかとグリ江モードで微笑んだ。

「一曲どうですか?色男さん」

その後ヨザックとコンラッドという異色のダンスにあらゆる意味で広間は盛り上がったらしい。

メリークリスマス!!