彼女が望むなら世界だって手に入れたいと思ってしまう
「クリスマス?」
聞きなれない言葉に聞き返す。
「そっか、こっちにはクリスマスないんだよね」
いいよ、仕事大変でしょと苦笑して部屋を出て行った姿がちらついて仕事が手につかない。
あの様子ではクリスマスとやらについて何も言わないだろうと踏んで同郷の魔王陛下に聞くことにした。
「クリスマスってクリスマスだよなー?」
ユーリはそう言ってコンラートを見た。
「俺は一つしか知りませんよ、クリスマス」
「それでいいんだ」
どれだかわからないが多分同じものだろうと踏んで問う。
「クリスマスってのはー昔キリストっていう人がいて、その人の死んだ日・・・だったっけ?」
キリストとやらの死んだ日?
意味がさっぱりわからず物か何かだと思っていたのだがと少し困る。
「陛下、グウェンダルが聞きたいのはそういうことではないと思いますよ?」
聡い次弟は口を挟んだ。
「陛下って言うなよな、名付け親。じゃあコンラッドならどう説明するんだよ?」
口を尖らせて言う魔王陛下にコンラートは笑っていった。
「グウェンダルは多分に言われたんですよ。だから必要なのは由来じゃなくてその日の過ごし方でしょう」
「ああ、チキン食ってケーキ食って恋人や家族と過ごしてサンタクロースがプレゼントだよなー」
「サンタクロース?」
何だそれはと問うとユーリは情けない表情をした。
「えっとサンタってのはプレゼントをくれるんだよな!真っ赤な鼻のトナカイでさ!ん?恋人だっけ??」
恋人がサンタクロースという歌詞が微妙に混じっている。
「サンタクロースという職業の者がいい子に寝ている間に枕元にプレゼントを置いていくんだよ」
「・・・・・・・・・泥棒・・・ではないのだな」
「置いていくんだから泥棒じゃないよー」
「ではクリスマスとやらをしようと思うが・・・・」
グウェンダルの言葉にユーリはぱっと瞳を大きくした。
「じゃあさっ!皆にも参加して貰おう!!」
大勢の方が楽しいだろ?とユーリの一声で眞魔国第一回クリスマスパーティーが開かれた。
口唇を触れると先ほど触れた感覚が残っている。
宿り木という習慣はコンラートからヨザックが聞き又聞きしたのだが。
「・・・・・・無理か」
胸ポケットに入れていたものを取り出すと溜息を吐く。
こんな時アニシナの半分、いや一割でいいから余裕が欲しい。
あのふてぶてしさを羨ましく思う日が来るとは。
もう一つ溜息を吐こうとしたら声が掛かった。
「グウェン?」
振り向くとが立っていた。
月に照らされてとても綺麗な様子に見蕩れる。
「・・・・・・ああ」
間抜けな返事しかできない自分が情けない。
「ねえ、さっきの・・・嫌だったなら無理にしなくてもよかったんだよ?」
隣に立って見上げてくる様子はとてもとても可愛らしい。
「嫌、ではなかった」
「本当?」
首を傾げて聞く姿は愛らしい子猫ちゃんのようだ。
「ああ、は嫌ではなかったのか?」
嫌と言われたら立ち直れないかもしれないと思いつつおずおずと聞く。
「嫌じゃないよ。グウェンのこと好きだから」
にっこり。
頬を赤らめて恥ずかしそうに言われた言葉。
「ね、何か言ってよ」
くいと袖を引かれて堪らず抱きしめた。
「、愛してる」
耳元で囁けばますます赤く染まる肌。
「グウェン、クリスマスパーティー開いてくれてありがとう」
彼女から重ねられた口唇は想像していた以上に柔らかく温かかった。
「なあ、その指輪どうしたんだ?」
目ざといと言えないユーリだが割りと早く気付いたのはその指輪が少女の細い指には少し無骨なモノだったからだ。
「いいでしょ!?サンタクロースに貰ったのよ」
サンタぁ!?と目を剥くユーリ。
食事時だったからコンラートはくすりと笑いグウェンダルはやや血色のいい顔でそそくさと退席した。
「恋人はサンタ・・・・か」
くすくすと笑うにつられて噴出す名付け親に俺だけ仲間はずれ?と些か慌てるユーリの姿があったのだった。