「・・・っ!グウェンの馬鹿ー!!」
「待て、っ!・・・うわあぁぁぁ」
ドサドサドサっ
大雪崩を起したらしい書類の音にヴォルテール城に滞在していて運良くというか運悪く通りかかった王佐はなんだろうかと首を突っ込みかけて失敗した。
「どうしまし・・・・ヘブっ」
バッターンと叩きつけられた扉は高い鼻を直撃してしまう。
望んでもないのに扉との熱いキスまで眞魔国一の美貌は強制実行されてしまった。
しかし叩き付けた相手は気づいてもいない。
垂れてもなかったギュン汁がこれまた強制的に出されてしまった。
「そんなに書類が好きなら書類と結婚すればいいのよっ」
「できるかっ!おい待て・・・・っとギュンター暇ならこの書類を片付けて置いてくれ」
「わひゃくひふぁひはぁでふぁ」
「何を言っているかわからんが頼んだぞ」
「ちょっと・・・ちょっと待って下さい!グウェンダルー!!」
頼まれてしまった王佐の悲鳴は慌てているグウェンダルには届かなかった。
「全く・・・お花見しようって約束したのに」
くすんといじけて一人約束した桜に良く似たの木の下にいる少女の目の前にはご馳走が並んでいた。
どれも彼女の手作りで眞魔国に来て覚えたものもあれば日本の料理もある。
和洋折衷というより眞マ和中洋折衷。
「・・・・もういーや」
はあと溜息をつく。
こんなわがままで困らすつもりはなかったのだ。
彼が忙しいのはよく知っていてその仕事の大事さもよく知っているつもりだった。
ただやっと仕事がひと段落するという彼の言葉に舞い上がってしまった自分が悪い。
しかし楽しみにしていたのも事実なのだ。
「後で謝ろ・・・」
「今でもいいがな」
ふっと影が差したかと思えば低い声が落ちてきて視線を上げれば先ほど喧嘩した相手の姿。
「・・・仕事は?」
「ギュンターに押し付けた」
そんな要領の良い事を目の前の相手が出来たなんてと失礼なことを思うがすとんと腰を下ろした所をみると本当なのだろう。
「食べてもいいか?」
「・・・まだ許してないんだからね」
可愛くないと思いながらも意地になってしまう。
ぷいと横を向いていたらすっとグウェンダルの懐から取り出された塊。
「そうか。ではこれで許してくれないか?」
差し出されたのはあみぐるみ。
欲しいと強請っていた猫ちゃんの。
少し不細工な気もしたがそれだって愛嬌で個性的に見えるから欲目って怖いなと思って内心苦笑する。
きっと仕事の合間に作ってくれたのだろう・・・・忙しいのに。
リボンまで丁寧に付けられている。
「いいの?」
「お前のために作ったのだが」
少し照れているのか頬が赤くなっていて視線もあわせないグウェンダルに仕方ないなあと思う。
「ありがとう。猫ちゃんに免じて許してあげる」
「それはよかった」
ふわりと微笑まれてしまうと言葉が出ない。
卑怯だ。
卑怯すぎる。
「・・・グウェンなんて嫌い!」
「な、何故だ!?」
お花見の間中そんな痴話喧嘩をしている閣下とその婚約者をヴォルテール城の者達は微笑ましく見ていたらしい。