「ねえ、聞いて。アナタには運命の人がいるのよ」

美しいその人はいつも楽しげに笑って私の髪を撫でてくれた。

「うんめーのひと?・・・・・!それってコックさんだぁ!」

「ブッブー!大外れよ。いい?うんめぇー!?おっす、オラ悟空!!でもなければ蹴りの喧嘩上等ラブコックさんでもなくて・・・大きくなればわかるわ、きっと」

ふふ、と笑った表情はどこか楽しげでもあり寂しげでもある。

「うん!でもママものまねへたー!!」

幼いってなんて残酷!と泣き真似する母親とケラケラと面白がって笑う私。

ああ、幼い日の想い出はいつだって懐かしくてキラキラと輝いてる。
















毎週日曜日に掛かる電話が珍しく土曜日に掛かってきたせいか昔の夢を見た。

まだ自分が幼くて世界が狭くて空にある月さえも望めば手に入ると思っていた日々の夢。

「運命の人ねえ」

携帯の裏側にペタリと無理矢理貼られたシールは初カレシとのものだ。

恥ずかしいので嫌だと言ったのにいつの間にか貼られていた。

しかしそろそろ剥がし時かなと別れるかどうか悩んでいる所だ。

「なんだって私の友達に手を出すかなー」

呟きつつ窓の外を見れば気分とは裏腹に快晴。

洗濯日和である。

何が許せないって浮気するより友人に手を出したことが腹立たしい。

まあまだ浮気と言える段階ではデートに誘った位で断られているのでなかったかもだけど。

気まずくなったらどうしてくれる!と思うのはきっと記念すべき初カレシが運命の人ではなかったせいか。

できるなら芋判に『落第』と彫ってちょっぴり老後が危なさそうな髪の毛の生え際・・・つまりデコにポンっと押してやりたい気もする。

面倒臭いのでやらないが。

「縁を切るのは早い方がいっか」

手にした携帯で短文を打ち込んで送信。

その合間に服を選り分ける。

これは手洗いじゃないと駄目な奴だ。

着々と服の山が二つできていく。

近くのファミレスで・・・と思ったが振られる相手が可哀想だと公園に呼び出し。

ああ私ってなんて気の利く女!?と自分を持ち上げてみても二股掛けられそうになったという不愉快な事実は消えてはくれない。

「洗濯したら行きますか」

はカチリと洗濯機のスイッチを入れたのだった。





















光が細い筋となって駆けていく。

何本もの光の奔流。

そして一点に向かって集束。

何度も見た覚えのある光景は世界的に有名な某巨大テーマパークのアトラクションと同じもので。

「スタツアだ・・・・」

ぐるぐると回っていく視界と身体に掛かる重力のような圧迫感。

両親に連れられて何度もアトラクションに乗せられた経験値がこんな所で役に立つとは!?

光の中に落ちていくときふわりと大気に包まれた気がした。




























「やぎだでッ」

ジャッパーン!!

某有名漫画の名前を知らず知らずコールしてしまったようだ。

ドンペリコールより恥ずかしい気がするのはきっとそのつもりが全くない偶然からだったからに違いない。

ドンペリコールに必要なのはお金オンリーだしなと沈みつつ思ったのもつかの間。

ザバリ

「ぷはっ・・・」

水から頭を出して息をする。

長いこと息をしていなかったような気もするしそうでない気もする。

纏わりつくのは暖かい水というかお湯で濡れた髪をかき上げて辺りをきょろきょろと見渡してみる。

どう見てもこれは・・・・・。

「温水プール?」

ゴージャスな獅子の口からはお湯がザバザハ注がれていてプールサイドには何でかしらないけれど鏡と椅子。

「・・・・・・・もしかして此処ってプールのように作られたお風呂?」

どっち!?と聞かれてもファイナルアンサーは簡単に出せそうにないなと暫くの間ぼんやりと考えてしまったのだった。