「あのさ・・・別れたいんだけど」
切り出した言葉に相手の顔色が段々変わっていくのが見ていてよくわかった。
ああ、不味い切り出し方をしてしまったかも。
そう後悔しても先にたたないのが後悔であるとはぼんやりと思っていた。
とりあえず二人で話をするからと只でさえ渋い顔を歪めているグウェンダルを宥めて待ち合わせにしていた時計の側のベンチに座る。
約束の時間から五分過ぎてしまっていたけど大丈夫だろう。
これまで相手が約束の時間が過ぎてから十分より早く付いたことが無かったことを思い出してほっとした。
今までは最低だと思っていた遅刻癖も役に立つ。
渋る婚約者を説得する時間を作りたい時とか。
「ごめん。待った?」
約束の時間から二十分経って相手は来た。
待ったに決まっているという言葉も出ない。
相手は急いだ様子も無く笑っている。
髪は染められていて少し痛んでいる短髪。
そこそこカッコよくて笑顔がいいと人気のある彼は携帯を触りながら言った。
「で、メールで言ってた用って?」
「平田君の話からでいいよ」
直ぐに切り出すのは難しいなと相手に話をさせようとしていたのだが十分近くたってもう無理と遮った。
「だから俺ととあと二三人で旅行行こうぜ」
「あー・・・私、行かないよ」
メンバーの中に友人が入っていたのでバイトあるって言ってたよと言ったのだが連れて来いよと言ってからの言葉だった。
「なんで?」
不思議そうに聞き返すその様子に呆れた。
多分彼、平田としてはが嬉しいとかありがとう楽しみという言葉を返すと思っていたのだろうが。
浮気をしようとしていたことをバレてないとでも思ったのだろうか。
「あのさ・・・別れたいんだけど」
切り出した言葉に相手の顔色が段々変わっていくのが見ていてよくわかった。
「・・・なんでだよ」
一端、血の気の引いた顔が段々赤くなっている。
怒りの為だろうなあとプライドの高そうな彼を見る。
「平田君を好きじゃないから。好きになれるかと思って付き合う事にしたけどやっぱり無理だよ」
やんわりと拒否の意思を伝えたつもりだったのだが一言余計だったらしい。
特に好きになれるかと思って、辺り。
どうやら彼は俺達ってラブラブじゃんと思い込んでいたようだ。
「わけわかんねー!!俺は別れねー」
「痛っ・・・やだっ・・」
掴まれた腕。
引き寄せられて無理矢理キスされそうになる。
抵抗するが力では叶わない。
嫌だとぎゅっと目を瞑った。
ゴスっ
「ぐっ・・・痛ぇ」
鈍い音と解放された腕に目を開けれは頬を押さえている平田君が見えた。
「勝手に私の婚約者に手を出して・・・命を掛ける覚悟はあるのだろうな」
低音ボイスが地の果てから響いてきたような気がした。
助けてくれたのはグウェンダルだった。
「グウェンっ!ありがとう」
助かったとばかりにベンチから立ち上がって彼の隣に行けば頭を撫でられた。
その青い瞳には怒りがまだ燻っている。
「おいっ!二股掛けてたのかよっ!最低な女だな」
喚いた声に我に返る。
「勘違いしないで。彼は・・・私の決められた婚約者でついさっき知り合ったばかりなの!大体私は私の友達に粉掛ける男なんて彼氏なんて認めない」
グウェンダルは一発殴っただけでは足らないとやや怒りを燻らせていたのだがの背、いや体からふわりと立ち上がるオーラとも言うべき気配にただ、見惚れていた。
鮮烈で美しい紅と白銀の魔力。
「な・・なんでそれっ・・・くそっ!もういい。お前みたいな女どーでもいいっ」
立ち上がって逃げた元彼氏君は携帯まで忘れていってしまっていた。
命の次に大事なのではといつでも離さなかった携帯を悪いと思いつつは開いてみた。
「・・・別れて正解だったね」
プライバシーの侵害になるが電話帳を開いたら女の子の名前がずらりと並んでいる。
はサクサクっと自分の情報だけ削除してどうしようかと迷ったのだが携帯の画像部分のボタンを間違って押してしまって絶句した。
「・・・やっぱり最低」
中にはどう見ても盗撮としか思えない女の子の写真だらけ。
「警察に行くべきかなあ」
うーんと迷っている様子のを見ながらグウェンダルはゆっくりと彼女を待ったのだった。
結局あの携帯は友人経由で彼に帰すことにした。
ただ彼が盗撮していた事はその男友達に話して削除と説教を頼んだ。
次にしたら警察に行くからと脅すし本当にそうするよと言った友人は隣にいたグウェンダルを不思議そうにぽかんと見ていたが結局元彼の悪行の方が
驚いたようで話が済めばそそくさと帰っていった。
「お腹すいたね。全くなんでこんな大事になったのかなあ」
振り向いてグウェンダルを見ればむすりと不機嫌そうである。
「どうしたの?」
近付けばぐいと引き寄せられた。
腕の中に抱き込まれ、広い胸に引き寄せられれば日頃そういうコミュニケーションの少ない日本人としては照れるわけで。
相手が超絶美形でしかも好みど真ん中だと心拍数も上がるのは仕方ない。
「私は決められた婚約だから受けたのではなく、選ばれたのだ」
お前にと低い声で耳元で囁かれれば腰が抜けそうだ。
狡いと思う。
「うん・・・そう、だったね」
ごめんと謝るにグウェンダルはわかればいいと頷いた。
「礼を貰って良いか?」
「お礼?う、うん・・・」
ちゅっ
可愛らしい音と共に触れた柔らかい感触。
「えっ・・・あの、いまの・・・」
「足りないが・・・今は我慢しておこう」
残りは国に帰ってからだと言った相手の言葉にえ、ええっと混乱しているの姿があったのはグウェンダルしか知らないこと。