「ねえ、男の人と女の人どっちが強いと思う?」
謎々のように戯れ混じりの言葉に悩むのはいつものこと。
「ちからがつよいのはー・・・・おとこのひとだけどー」
「あら、迷ってるわね」
悩んでる最中にくすくすと笑われて口を尖らせた。
「だってママのほうがパパよりつよいもん!」
「そうねえ。私はどっちも強いと思うけど・・・アナタは強い人になってね」
「うん!なるっ」
答えなんてどうでも良かった。
言われた言葉を受け止めたくて心に刻んだ。
「力でなく、争いを止める勇気を、駄目だと言える強さを持てる人になってね」
強い人になれたかどうかはわからない。
でもあの人の言葉はまだこの胸に残ってる。
「・・・・だから男は駄目だというのですっ!」
男女差別宣言?
そう思って瞼を上げればさっきの小柄な美人さんと目が合った。
「気がつきましたか?貴女はさっき倒れたのです」
「・・ああ、はい」
あれ?言葉がわかってる?
「疑問に思ったようですね!貴女が何故私の話がわかるかといえばこの花セール種を食べたからです」
「鼻せーる種?」
目の前に出されたのは象形文字の方が解読できそうな線。
日本語でもなく英語でもない。
「読めないのですか!?花セール種には読メール効果もあるのですが・・・・・」
余メール・・・・上様がメールでもくれるのだろうか?
暴れん坊な将軍様にメールを貰うのは遠慮したい。
携帯の使い方からレクチャーの必要がありそうだ。
「したがってこれは・・・・・・・・失敗です」
ぴしりと髪の毛が机を叩いた瞬間同じく人差し指をビシっと突きつけられてそうですかと頷いた。
全く有無を言わせない迫力のある人だ。
ガチャリ
扉が開いてそろそろと三人が入ってきた。
「起きたか?」
「ええ!しっかりすっきり起きてますよ」
「あの・・・私」
自分の状況をやっと把握していつの間にかソファーに寝かせられていたことに気づく。
遅くなったのはきっと目の前の女性のせいが九割。
「では私は実験がありますので」
すたすたと足裁きも軽やかに立ち去っていく彼女は扉の所でくるりと身を翻した。
「私はカーベルニコフのアニシナと言います。ではまた後ほど」
「あ・・ありがとうございました!」
お礼を言った私ににっこり笑ってスタスタ去っていく姿はどんな人よりカッコいい。
なんて男前な人だろう。
見た目はあんなに可愛い美人さんなのに。
ぼけっとしていたらすっと目の前に立たれた。
見てみればさっきの灰色の髪の美人さんだった。
「げ!」
失礼な悲鳴だって事はわかってる。
けれどそうとしか言えやしない。
「鼻!鼻血出てますよ!」
「これは失礼」
懐から常備しているのか丸められた布っぽいものが取り出された。
・・・・まさか。
「こりぇで大丈夫なはずれす」
大丈夫ではありません。
美人さんなのに鼻栓。
美人さんなのにっ!!
笑い出したいのか泣きたいのかよくわからない。
受けた衝撃が大きすぎて言葉も出ない。
「ようこそ、眞魔国へ。私はフォンクライスト・ギュンターと申します。貴女のお名前を伺ってもよろしいですか?」
すっと恭しいまでの礼をされてうっとりと見蕩れたくなるが無理だ。
いくら超絶美形でも鼻栓着用では決まるものも決まらない。
「・・・あ、ご丁寧にどうも。私は久我ユウコです」
「ユウコだと!?」
いきなりの突っ込みに見れば髪を肩で一つに縛っている不機嫌そうな男の人が驚いたような表情。
青い瞳に最後に見たのはこの人かと納得する。
「えーと・・・・もしかしてこの国ではユウコってなんだか悪い言葉だったりするの?」
異国の言葉では色々あるのかなと心配になるのは親から貰った名前が『馬鹿』とか『お前の母ちゃん出べそ!』なんて意味だと嫌だったから。
名乗る度に喧嘩沙汰は遠慮したい。
「いいえ。珍しいお名前ですがとてもお似合いだと思いますよ」
キラキラキラと星が飛んできそうな微笑みだが惜しいかな、鼻栓のせいで魅力が半減している。
「そう・・じゃあなんで驚いたの?」
振り向けば並んで立ってる天使のような美少年と口元を覆って目をかっと開いてる美青年。
美青年というのはちょっと違うかもしれない。
美しいのは美しいけれど彼の場合は貫禄みたいなものの方が溢れてるから。
美男であるのは確かだけど。
「当たり前だ!いきなり双黒の者が眞魔国に現れれば誰だって驚く!」
キャンキャンと高音ボイスが耳を切り裂く。
・・・煩い。
「双黒ってえーと黒髪と黒目ってこと?それとも服装?」
「その御髪と瞳のことですよ」
うっとりと見つめられて非常に居心地悪い。
しかもまだ目の前の人は呆然としてるし。
「双黒が珍しいのかもだけど日本ではこれが当たり前なの!まあ今は貴重かもだけど」
髪を染めたりカラーコンタクトはファッションの一環として確立しつつあるし。
しかも人間でないような真っ黒な人物も出つつあったし。
こう考えると流行って怖い。
「それは虐げられているということか?」
不機嫌そうな声が聞こえた。
地の底からのようなドスの利かせ方にびくりと身体が竦むが何か勘違いさせてしまったようだと気づき否定する。
「ううん。単に自分の嗜好かな。今の日本じゃ茶色の髪とか金髪とかがいいっていう人が多いのよ」
で?とギュンターという人を振り向けば勿体無いとか叫んでる。
「ギュンターは黒髪フェチだ。僕はフォンビーレフェルト・ヴォルフラムだ。アニシナの作品が効くのだから魔族なのだろう?」
「魔族?私は人間だけど?」
さすが夢だ。
どうやら此処は魔族の国という設定らしい。
「いや、これは魔族だ。向こうの魔族の血が半分入っている」
「これ?これって何!?」
ジロリと睨み付けられてなんだか自分が酷く悪いことをしている気がしてくる。
しかし初対面でこれ呼ばわりは頂けない。
それがタイプど真ん中の人であっても。
「全く・・・・覚えてないようだな」
「だから、何よ!?」
「私の名はフォンヴォルテール卿グウェンダル。・・・・・お前の婚約者だ」
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああ!?」
絶叫が響き渡ったのは仕方ないのではないだろうか。