遠い遠いその場所をあの人はいつだって懐かしそうに語ってた。

「ねえ、いつかアナタにも見せてあげたいわ」

「なーに?」

首を傾げて聞くとふふっと笑いかけられる。

「そうね、草原を駆ける風とか見上げた空の青さとか苦しくなるぐらい懐かしい風景を」

パパには内緒ねと言われてうんと頷いた。

とても綺麗な表情は少しだけ悲しそうで大好きなその人を悲しませたくはなかったから。

「こうかいしてる?」

「あら、難しい言葉を知ってるわね。いいえ、私は後悔はしないわ。アナタとパパがいるもの」

その時の笑顔はとても誇らしげで美しくて。

自分もいつか何かを選べるのだろうかと思わせてくれた笑顔だった。




















「こ・・・婚約って誰と誰が?」

一瞬灰になりかけたのだが此処だけは聞いて置かねばならない。

事実確認は大事だと何処かのニュース番組でも言っていた。

誤認逮捕は免罪だ!

事件は会議室でなく今此処で起こってる!?

「私とお前がだ」

「本当ですか、兄上!?」

と同じく一瞬止まっていたらしいポメラニアン・・・もといヴォルフラムがキャンキャンと喚きだした。

ちなみにギュンターと言えば灰になってた。

真っ白に。

今は風になってるかもしれない。

「覚えてないか?を」

「!!」

「うわっ!」

ばっと振り向かれて驚く。

美人のどアップは迫力だ。

「・・・確かに似ていると言えばこの芸術家が作り上げたような端正な顔立ち、綺麗な黒髪に掘り出して磨き上げた黒曜石にも勝る瞳は似てますが・・・」

「そんなに褒められると困るんだけど。一般的な顔ですって」

そう困るの一言だ。

自分よりも何倍も綺麗な年下の男の子に褒められると嬉しいというより居たたまれない。

これは何の羞恥プレイですかと聞きたくなるほどの美辞麗句だ。

「事実だ」

きっぱり言われると赤面するぞこのやろう!!

「しかし、兄上。はまだ19才です。こんな100才近い姿では・・・」

「待て待て待てぇ〜っ!!」

聞き捨てならない。

なるわけがない。

「誰が100才の金さん銀さんだ!」

よぼよぼって言いたいのか!?

言外にピチピチじゃないって!?

女性に年齢の話はタブーという一般常識は知っていたがこうも早くに自分に降りかかるとは思わなかった。

せいぜい30才半ばのレディになってからだと思ってたのに!!

「私はれっきとした10代最後の年ですっ!ラスト・オブ・サ○ライじゃなくてね!ていうか年下のヴォルフラム君みたいな子に言われたくなーい!」

「ヴォルフラムは80才だ」

「へぇ・・・って80!」

どうしてそんなにお肌つやつや!?

ドモホルン○ンクル真っ青だとまじまじと見つめれば微かにヴォルフラムの頬が赤らむ。

君の愛用の化粧品は何だと問い詰めても構わないだろうか?

今は男性用化粧品も出回っているというし。

「まあいい。ならば兄上の婚約者に間違いない。兄上、僕らはお邪魔ですから出ています」

行くぞ、ギュンター!と風となっているギュンターの服をずるずると引きずりながらピチピチ80才は部屋を出て行った。

「・・・・恐るべし高齢化の波」

の呟きは静かな部屋に響いて消えた。