自分は平凡な日本のどこにでもいる学生、だと思う。

人と変わっている所と言えば少しだけ習い事が多い位。

でも今は全部止めたから極めて普通・・・だと思う。

本が好きで中でも魔法とか妖精とか出てくる話が小さい頃から大好きだった。

今でもファンタジーとか異世界とか?そういう世界に憧れてたりしてたよ、実際。

でも、でもね。

本当に現実になってみると嬉しいっていうよりは・・・うん、困惑とかマイナスの要素の方が大きいみたいで。

現実逃避に今月の生活費で何を買おうかなんて考えていたのだけど。





















「おい、!聞いているのか?」

目の前の相手は現実逃避もさせてくれない。

「聞いてるけど・・・貴方こそ人の話を聞いてたの!?」

目の前に並べ立てられているドレス・ドレス・ドレスの山。

服飾関係の勉強している友人が見たら涎を垂らしそうな光景だ。

平凡な学生の生活費では布地すら買えなさそうな代物ばかり。

そしてその隣には偉そうに腕を組んでいるフォンヴォルテール卿グウェンダル。

訂正。

偉そう、じゃなくて偉かったんだ。

此処は日本でもヨーロピアンでもなく勿論長崎にあるチューリップ村でもない。

地球上の何処のテーマパークでもなく眞魔国。

本当はもっと長いのだけど覚えてられないから省略。

大事なのは其処ではなくて目の前の相手がこの国の不在の王様の代わりに政治を行っている代表だということ。

つまり権力者。

こんな不機嫌そうな顔してるけどきっと奥さんはいっぱいいる。

でなければ愛人か恋人。

そんな選り取りミドリーな人がなんで私と一緒にいるかと言えば。

「早く選ばないか」

ドレスを選べと言ってるのです。

それは普通メイドの役目なのでは?

疑問に思って口にしたら率直に返ってくる答え。

「お前が気に入ったものを着るんだ、式で」

「・・・式ってなんのですか?」

思わず敬語になってしまうのは威厳のせいだと悔しく思いつつ問えば呆れたように言われた。

「私達の結婚式に決まっているだろう」

「・・・は!?貴方がドレス着るんですか?」

しかも私達?

今、私達って言った?

辺りを見回してもフォンヴォルテール卿=『私』の部分だとしたら・・・『達』って私しかいないじゃん!!

「お前のドレスだ。私が着るわけがないだろう!!」

突っ込みありがとうというべきかそれともと口をもごもごと動かす。

なんとかしなければなるまい。

今までにないスピードでこの危機的状況を回避しようとする。

「あっ!?・・・あのー私にはもう心に決めた相手が・・・」

「なにッ!!誰だ!?」

冗談のつもりで言えばドスの効いた声が降って来た。

こここ怖いんですけど!!

浮かんだ相手は幸か不幸か浮気しやがった彼氏だった。

「向こうの世界の人間なんですけど」

「向こうの人間か」

ここが異世界で良かったね、今アンタ、殺されるところだったよ。

お別れする予定だった相手にちょっとだけ心の中で手を合わせる。

考え込むような仕草をして口を開いたヴォルテール卿。

「仕方ない。そいつときっぱり別れるまでは結婚は延期だな。・・・何をしている」

「なんでもないヨー」

漫画の中国人の喋るカタコト日本語のような語尾になったのは思わず小さくガッツポーズしてしまったからで。

ぶんぶん振り回して元気元気と某コマーシャルの社長の如くラジオ体操第二のワンフレーズ再現中。

ああ、何やってんだろう私。

「まあいい。今日は母上・・・上王陛下もいらっしゃるから好きなドレスで来い」

立ち去る時に思い出したかのように頭を撫でた大きな掌がなんだかとても懐かしく感じたのはきっと気のせいだと言い聞かせた。

























選んだのはピンク色のドレス。

赤い花が裾に刺繍されているそれは作りはシンプルだがとても可愛らしいものだった。

「これ以外は着れないっていうのが正しいよね」

思い出してもあの胸が半分まで見えそうな黒のドレスとか下着まで見えそうなスリットの際どいブルーのドレスとか

レースだけ重ねてて肌が見えてますよ!!なドレスとかははっきり言って無理だ!!

その中で紛れていたこのドレスを見つけた時には泣きたい位嬉しくなってしまったのだが。

兵士に案内されて部屋に通された。

いるのは来た時に会った人ばかりかと見ていたら一人見知らぬ人を見つけた。

「あの・・・貴方は?」

年齢は同じ位に見えるが多分年上なのだろう、物凄く。

見た目はラグビーとかサッカーとかフェンシングとかしてそうな爽やか青年。

テニスでも良さそうだ。

質問して慌てて名乗る。

「私はです」

「ああ、久しぶりだね。とっても綺麗になった」

にっこり。

頬が熱い。

何処かの誰かに似ていると思ったらこのノリはテニス部やサッカー部のキャプテンの爽やか旋風だと思いだす。

もしかしたら高校球児だったのかもしれない。

大分、昔に。

「おい、ウェラー卿!は兄上の婚約者だぞ!!」

ぐいっと引き寄せられて気付けば金髪の後頭部が目の前に。

どうやらかばわれているらしい。

か・・・可愛いっ!!

「なっ!!っ・・・離せっ」

抱きついてみれば僕はまだ死にたくないっと言われて酷いなと腕を離した。

「私はそんな抱きついたくらいで人を殺せるような力はないし!!」

「・・・あるかもね」

「え?」

ウェラー卿の呟きに驚いて同じ方向に視線を向ければ滅茶苦茶不機嫌という感じのヴォルテール卿。

・・・此処へ」

引かれた椅子はどうやらグウェンダルの隣らしい。

「えー・・・私はウェラー卿?ウェラー卿とヴォルフの隣が良いなあ」

「私はコンラートです。良かったら名前で呼んで貰えるかな?」

にっこりと笑う表情は本当に魅力的だ。

「わかりました。私もって呼んで下さい。ウェ・・じゃなかったコンラート?」

にっこり。

はヴォルフラムが尊敬する兄の顔を見て青醒めた事に気付かない。

「コンラートが呼びにくいならコンラッドで」

「コンラッド?うん、コンラッドって呼ばせて貰う!」

よろしくと握手までしている姿にグウェンダルは面白くなかった。

「で、フォンヴォルテール卿グウェンダルさん?私はどうしてもそっちに座らないといけないんですか?」

何で自分はフォンヴォルテール卿グウェンダルさんなのにコンラートとヴォルフラムは・・・・。

「ああ・・・」

グウェンダルの声は乱入してきた人物によって掻き消された。
















「あらー。久しぶりね。ちょっと会わないうちに綺麗になっちゃって」

「むむむっ」

「あはん。私、とっても嬉しいの。だってが私の可愛い可愛い娘になってくれるんですもの」

「むぶふっ」

「母上、それくらいにしておかないとが死にます」

「あら、ごめんなさいね」

「むはっ・・・ありがとう、グウェンダル・・・さん」

凄い。

凄い新発見だと酸欠気味の頭はぐるぐると一つのことしか頭にない。

『乳で人は殺せる!!』

「ウェラー卿・・・見たか?」

「ああ、参ったな」

助けてもらった事で気が緩んだがうっかりグウェンダルと名を呼んだ時に見せた長兄の顔。

「運命のこねこたん現る・・・か」

コンラッドのある意味衝撃発言な呟きは一番近くのヴォルフラムにも届かず消えていった。