選ぶのは自分だと思っていた。

そして彼女自身だと。

だかしかしこんなに早くその機会が来たことに動揺してしまうのも致し方ないことだろう。




















「ねー、グウェン?みてみてこねこちゃん」

にゃーと鳴き真似をする彼女は先日空から、いや正しくは異世界から来たという少女だった。

婚約という形を取るべきかと迷った末に一応養女という形で世話をすることになった。

母のツェッツェリーエ曰く

「自分好みの花嫁を育てるなんて男の方の夢らしいじゃない、グウェンダル」

とのことだが。

彼女自身は男を彼女色に染めるのが好きという人だからあまりその助言は信用できない。

自分は染められたいとは到底思えないので。

「それはゾモゴサリ竜だ。子猫ちゃんはめえめえだぞ」

「めえめえはやぎさんだよー」

ぷうっと口を尖らす様も愛らしい。

つんつんと頬を突付けば擽ったそうに笑う。

自分に娘がいたらと思うほどに可愛くて愛しいと思う。

そう正直に母親に言ったら呆れたように笑われた。

「女の子はあっという間に綺麗になってしまうわよ」と。

「グウェンー?どこかいたいの?」

ぺちぺちと頬に触れられ我に返る。

「いや・・・そう言えばヴォルフラムと遊んでいたのではなかったのか?」

「ヴォルフなんてきらいだもん!」

ぷんっと背けた顔。

覗き込めばじわじわと涙が瞳に膜を作り始めていた。

「どうした?」

きちんと聞いてやるとぽつぽつと喋り出す。

「ヴォルフはね・・・にんげんキライって。もにんげんだよーっていったらびっくりしてどっかいっちゃった」

ぐすぐすと涙の混じった声で告げられた言葉にそうかと返す。

「ぐ・・グウェンはがにんげんだとキライ?」

溢れそうな涙をぐっと堪えて見上げられる。

キラキラと輝く黒の双眸にはとてつもない力が秘められている。

「・・・いや、嫌いになんてならないな」

彼の場合はならないではなく、なれないが正しいのだが。

それを置いても小さくて可愛らしい子どもになんの非があろう。

悪いのは武器を持って戦う者達でありそれを先導する者達であって女子どもではないのだ。

それに・・・。

は人間ではなくて魔族だぞ?」

「そうなの?」

びっくりと驚いた拍子にぽろりと涙が零れた。

「お前の母上は私も良く知っている。気高く強く美しい人だった。父上は向こうの魔族だと聞いている」

「ええー!パパとママが!?」

びっくりしたという様子のを抱き上げてそうだと頷く。

「お前の母上は古き王の血縁の者と十貴族の次席にあった者の娘でとても強い力を持っていた」

「うん。ママつよいもん!」

少女は父親はいつだって母親に勝てないということを自慢げに話した。

「そうか。そしてお前の母上は眞王陛下からの宣託を受けた」

「せんたく?」

きょとんとした様子に言葉を捜す。

「宣託とはお告げのことだ。は占いを知ってるか?」

「うんー!私はねえ狼なんだよー!!」

それは一昔前に流行った動物占いだと突っ込んでくれる人は此処にはいなかった。

そしてグウェンダルがこっそり狼より赤耳ずきんだろうと思っていたことにも突っ込みは入らなかった。

「そ・・そうか。眞王から言われたのは『異世界にて次代を育め』というものだったらしい」

「・・・?」

あの日を思い出してグウェンダルは少しだけ自嘲の笑みを浮かべた。

「だいじょーぶ?グウェン?」

声を掛けられてああと返事した。

今度は迷わない。

間違えもしないし、選んでみせる。

「次代とは、お前のことだ。お前を生んで愛するために母上は向こうに行ったんだ」

もママすきー!」

愛するという言葉に嬉しそうに少女は笑った。

聞いてみれば前に母親から習ったという。

『愛するっていうのはね、いっぱい大好きっていう意味よ』と。

頬を撫でて涙を拭って知る限りのことを教えてやれば幼い子どもは少しだけ戸惑ったような、でも嬉しそうな顔をしていた。

「そして私はが魔族でも人間でも私はが好きだぞ」

サラサラの黒髪の感触を心地よく感じながら頭を撫でてやる。

も!もグウェンだいすき!」

ひしっと抱きしめられてその小さな手の暖かさに頬が緩んだ。

「そうか。では――――」

その日のグウェンダルの言葉に少女はにっこり笑っていいよと頷いた。

約束を交わした日。

その日がグウェンダルとの運命が本当に交わった日となる。