「それは誰から?」
友人に聞かれてもわからなかった。
フクロウが重そうに運んできた花束。
名前のないカードが一枚。
ピンクの美しい薔薇は全て蕾。
なんてロマンティクなんだろうとはぎゅっと抱きしめた。
「誕生日おめでとう!」
朝起きたらそう言われて友達からお菓子とか貰った。
「ありがとう」
祝ってもらえるのって嬉しいなあとついついえへへと笑ってしまう。
大広間で皆に誕生日おめでとうと言われてありがとうと言って朝食が始まった時恒例のフクロウ便が到着した。
「あれ見ろよ」
誰かの声がして見上げてみると一羽のフクロウが重そうに薔薇の花束を運んでいた。
「凄い」
誰のかなあと見上げていたらフクロウはばさりとの目の前に花束を落として飛び立った。
「わ・・私の!?」
「凄いゴージャスね。恋人?」
隣に座っていた友人が恋人などいないのをわかっていてからかってくる。
「誰からだろ」
両親からは昨日届いていて他は思い浮かばなかった。
「どこかで見たことあるんだけどなあ」
うーんと唸りながら大広間のソファーへ寝転ぶ。
頭の上から声が降ってきた。
「マナーが悪いんじゃない?」
声のした方を見ればハーマイオニー。
「ねえ、このカードの筆跡どこかで見たような気がしない?」
渡されたカードは朝食時に届いた薔薇とともに贈られたもの。
色は白地にグラデーションかかったピンクの可愛らしくも上品なもの。
そしてカードにはたった一言。
『Happy birthday』
名前も書かれていないそっけのないと思うだろうカード。
けれどもにはとても控えめな一言で祝われて幸せだと思うのだ。
「どこかで見たような気がするんだけどなあ〜」
「・・・・・・・・・・・」
心持ち青褪めたような友人にどうしたの?と覗き込む。
「あ、明日は魔法薬学だからはそろそろ寝たほうがいいんじゃない?」
「あ・・・うん、そうする」
ありがとう、ハーマイオニーと言ってはおやすみーと授業中居眠りしないように早めに眠りに部屋に戻ったのだった。
「それ何?」
ハーマイオニーが難しい顔で見ているカードにロンが難しい問題でも書いてるのかと興味深々で聞いてきた。
「この筆跡、見覚えあるでしょ」
差し出されたのはがハーマイオニーに渡したまま忘れたカード。
「これ・・・何処かで見たような」
ハリーがロンの手元を覗き込んで呟いた。
「どこだっけ?」
「も明日は気付くと思うんだけど」
友人二人に謎を残したまま明日が楽しみかもとハーマイオニーは部屋へ戻ったのだった。
「あれ?」
既視感を感じて瞼を擦る。
どう見ても同じ筆跡。
ローブの右ポケットにハーマイオニーから今朝忘れていたわよと渡されたカードが入ってる。
そっと触れてやはり同じだと確認する。
「?」
授業も終わって放課後。
生徒達は開放されたとばかりに散り散りになっていく。
「ごめん、用事!」
向かった先は地下へ続く階段だった。
コンコン
「開いている」
「失礼します」
キイイ
開けた扉の向こうには魔法薬学教師が不機嫌そうに座っていた。
「何か用かね、ミス・」
そっけない言葉におずおずとローブからカードを取り出した。
「あの、このカードってスネイプ先生が書いてくださったんですか?」
黒板やレポートの採点時と同じ筆跡だと気がついたは間違っていないはずと言い聞かせながら尋ねた。
「そのカードを我輩が書いたとしたらどうするつもりかね」
そうだ、とも違うとも言わないスネイプに戸惑いながらええと、と口篭る。
「いえ、勘違いですよね」
失礼しました。
そういって出ようとしたら扉が閉められた。
魔法・・・ではなくスネイプの腕で。
「せ・・先生?ちょっと近くないですか?」
顔が触れそうなほど近くにあってはびくりと身を竦めた。
「答えたまえ」
耳元で囁かれた言葉に従う。
「え・・お礼を・・・」
言おうと思ってという言葉は視線が絡め取られて言えない。
をじっと至近距離で見つめる黒い瞳。
「そうか。確かにあれは我輩が贈ったものだ」
くいと顎を抓まれる。
日頃は薬草を扱う指先は少しだけ荒れていて。
「あ・・ありがとうございます」
「礼なら身体で払って貰おう」
その言葉にえ?とが問い返すとほぼ同時に唇に温かく柔らかい感触。
「・・・・・・っ」
真っ赤になった少女にスネイプが彼女だけに聞こえる声で気持ちを囁く。
「・・・・・・・失礼しましたっ!」
これ以上真っ赤になれないほど赤面した少女が走り去った後満足げなスネイプの上機嫌な姿があったのだった。