目が覚めた。
なんだか凄く良い夢を見て笑っていた気がする。
まだ目覚めたくはなかったけれどゆるゆると覚醒していく思考にしょうがないと瞼を開ける。
「・・・・・・っ・・!」
目の前にスネイプ先生。
なんで?
記憶を巻き戻してようやく落ち着く。
「昨日あのまま眠っちゃったんだ・・・」
身長差でいつもはある距離も今はゼロ。
近くから見るスネイプの寝顔にはつい見とれてしまう。
「睫毛長いよ」
眉間の皺はもう癖になっているのか刻まれているがそれでも普段よりは柔らかい雰囲気。
衝動的に手を伸ばす。
黒髪をゆっくりと撫でてスネイプを見ればむむ、と眉間の皺は深くなったものの起きる気配はまだない。
高い鼻筋を指でなぞる。
繊細なカーブを描く唇も。
「えい!」
鼻を抓んでみました。
「・・・・・・何をしている」
ぱちりと瞳を開けて起床したスネイプからが慌てて逃げ出したのは言うまでもない。
「全く人が寝ているのをいいことに」
「だから謝ったじゃないですか」
ぶつぶつと文句をいうスネイプには言う。
「大体鼻抓んだだけじゃないですか!?額に肉って書いたわけでもご臨終ごっこしたわけでもないのに」
心の狭い男性はもてませんよ〜といえば
「其処までされて笑っていられる者の神経を疑うな」
と返されて。
確かにと納得するの中では
「ノープロブレムだよ、vvカモン・ベイベ」
と言っているスネイプの姿が。
「確かに病んでますね」
スネイプがの思考を見れなくて良かったのかもしれない。
ホテルをチェックアウトして向かう先は。
「・・・・・なんで浅草ですか」
「ここにはいい薬草店があると聞いてな」
隣を歩くスネイプの足取りの軽さに昨日と随分違うねと苦笑する。
嫌味で陰険魔法薬学教師も可愛いじゃないかと思ってしまうのはなんでだろう。
「先生ーお土産に何か買います?」
こけしとか日本人形とかをどうですと見せてみる。
ダンブルドア校長に袖の下で。
上司に恵まれなかったらオージンジィですぜ。
有名なCMを思い出す。
校長ってサービスしてくれるのか聞いてみたいところだ。
今ならこの魔法薬学教師もついてきます。
ホルマリン漬けの三点セットでなんと100ガリオン!!
「これなど喜びそうだな」
用途は?と聞かれて答えていいのか迷った。
いいのかなあ・・答えても。
「それ呪いのわら人形ですよ」
たしかに先生が送ったら偽モノでも効きそうです。
なんでこんなお土産やにこんなモノが。
裏を見れば使用方法の説明。
「何々?これは愛のわら人形です。好きな人の髪の毛など身体の一部を入れましょう。
次に丑三つ時に頭に三本ローソクを巻いて神社などの木に思いを込めて打ちつけましよう。
『貴方は私を思って胸が痛む』と胸元を五寸釘で刺すとあら不思議胸が本当に痛くなっちゃいますvv」
「効くのだな」
ふむと買いそうな勢いの先生に似合いすぎるので却下しますと戻した。
というよりあれは呪いだろ!!
薬草を買い込んだ先生は温度と湿度を詳しく設定して配達頼んでいた。
フクロウに。
黒猫のチルドパックも優秀なんですがね。
「喉渇きました」
我儘を言っても許されると思う。
なんたって朝から三軒も薬草屋を廻ったのだ。
「あの店で休むか」
入ったのは日本茶の専門店。
漂うお茶の香りに嬉しくなる。
「これ買って帰りましょう!!!」
先生の家で飲みましょうと言って急須と湯飲みも買う。
先生のは漆黒の絵柄。のは薄紅の絵柄。
対になっているものらしい。
お店の中にあるテーブルで抹茶パフェを食べて。
スネイプ先生にも無理矢理一口食べさせた。
「甘い」
そういって日本茶で流し込んだみたいだったけど。
これも思い出の一つだろうとはにこりと微笑んだ。
「他に行くところはないのだな?」
そう言うスネイプ先生にあると言って薬草園の端にある焼却炉まで連れてってもらう。
「ここから本当にいけるんですね?」
「行く先にその出口があるなら」
確かあったと思うとフルーパウダーをかけて貰う。
先生の服の端を持って呟く。
あの人が静かに眠る場所に。
そこは静かだった。
周りは少し早めに掃除をしたのか花が飾られていたりもした。
何も言わない先生を置いて歩く。
目的の場所へ。
あとからゆっくりとスネイプ先生はついてきた。
石を加工した場所に彫られた文字。
ポツリと言葉が零れた。
「ここにお母さんが眠ってます」
墓石の前には花が飾られていた。
きっと父親が持ってきたのだと思う。
「我輩はあまり知らないのだが・・・」
「私もです」
スネイプはその言葉に目を見張る。
が母親を知らないという事実に。
そしてその言葉とともに溢れた涙に。
「母は私を産んだ後すぐに亡くなったらしいんです」
抱いてくれたのかも知らないんです。
ただ写真で父親といる女性。
「お母さんは幸せだったのかな」
父親には言えなかった思いが零れ落ちた。
何故だと聞かれてもわからない。
ただ、本当に素直に零れ出た心の欠片。
「愛する者との子供を産んだのだから幸せだったのではないか?」
すとんと心に落ちてきて収まった。
同情の言葉が欲しかったわけじゃない。
ただスネイプ先生が本心で言ってくれた不器用な言葉が嬉しかった。
「お母さん、こんな人が私の婚約者だって。怪しいけどロリコンじゃないから安心してね」
笑えたと思う心から。
心外だというスネイプの表情のせいかもしれない。
「また婚約解消してもっと良い人連れてくるかもしれないしもしかしたら間違ってこの人と恋するかも知れないけど・・」
幸せになる努力はちゃんとするから――――――――――――
少女の言葉にスネイプは表情を少しだけ和らげて一礼して墓を後にした。
二人が去った後に残る静寂と風に揺れる花が二人の行く末を祝福していた。
「先生!!遅れますって」
慌てて搭乗手続きを済ませて通路に駆け込んだ。
セーフ。
「おい!!」
「何ですか?」
くるりと振り向くとスネイプ先生が近い。
「これは土産だ」
差し出されたのは小さな硝子細工の猫。
遅刻する原因となった見事なショーケースの中身。
「急いだから包装はないが・・・かまわないだろう」
まじまじと見つめればいらないなら返してもらおうかと手を差し出されてぺしりと叩いた。
「貰ったモノは私のものです」
可愛いvvと大騒ぎで喜んでスネイプが座った席の隣に腰掛けた。
「先生?」
「何――――っ!」
その日フライトアテンダントは目撃した。
一人の少女が黒ずくめの男に嬉しそうに頬にキスする場面を。
男が機嫌を悪くしてサービスしにくかったと彼女は言う。
頬が少しだけ赤かったことも。
「先生、帰ったらお茶飲みましょうね?」
「課題を仕上げることが先であろう」
残りの夏休みは半分。
夏が過ぎるとまた一年が始まる。
これは一年が始まる前のプロローグ。