夏の終わりを告げるような蝉の鳴き声

むわりと夕立の降る前の湿った空気

わずかな風にチリンと涼やかになる風鈴の音色

そんなものは全くなくて

グツグツグツグツグツグツグツグツグツグツグツグツグツグツグツグツ

エンドレスで大鍋が煮立っている音がBGM

「こんな中勉強なんて出来るわけないでしょ!!」

我慢の限界に机に本を叩き付けた


















SUMMER VACATIONも残り二週間を切った。

日本と違ってからりと乾いた空気の中私はイギリスのスネイプ先生宅に居候中。

婚約者だから同棲ともいえるかもしれないが同じ家に住んでいて一週間も顔を見ない状況はありえないと溜息をつく。

「手に入った本がよっぽど嬉しかったんだろうなあ」

先生が研究部屋に篭る前に届けられた本を受け取った時の先生の表情はクリスマスプレゼントを貰った子供のようだった。

いつもより顔色が良かったのは興奮でもしていたせいだろう。

それからこう言ったのだ、彼は。

「我輩はこれから研究を始める。課題だけは期間内に済ませるように」

パタンと扉を閉める時には鼻歌まで聞こえそうだったし。

スネイプ先生の鼻歌・・・・。

考えるだけで恐ろしい。

は机の上の散乱したレポートを片付けた。

やる気はとうに失せていた。

この暑い中大鍋の奏でるグツグツという音をBGMにして勉強がはかどる人間なんていない。

最高にクーラー効かせた部屋でさえ勉強なんてしたくないなと怠けたくなるのだから!!

「どこかに遊びに行こうかなー・・・ハリーの家とか?」

叔父さん家族というのが素晴らしく最低な人達らしいと噂で聞いてちょっと言ってみようかと呟いた。

ギィィ

「ポッターの所に行くだと!?」

「ギャア!!」

モクモクモクモクモクモク

干からびたようなスネイプ先生の背後から消防訓練の方がましな煙が流れ込んできた。

「えー・・・こういう時はそう119番?110番?184は非通知?ってイギリスの消防署って電話何番!?窓は開けるんだっけ閉めるんだっけ!?」

火事だ!!とオロオロしていたら先生から一言。

「ゴホゴホッ・・我輩の家には電話はないぞ」

「!!!」

って何でそんなに冷静なんですか!!

火を消す時は・・・・そう消火器ってそんなものないしっ!!

「先生、魔法で止めてくださいっ」

家なき子は嫌ですー!!!

便所おにぎりはもっと嫌です!!!

先生のローブを掴むとぬるりと手に何かついた。

「・・・・・・・ぬるり?」

手を見れば緑色。

「ああ、これはカエルの・・」

「うぎゃあー!」

ゴシゴシゴシ

慌ててローブの反対側に塗りつけた。

「ふう・・・・・・」

「いい度胸だ」

ふっと笑うスネイプはひくりと額に筋が立っている。

大人気ないですよ、先生vv

「って煙は・・・・」

見ればいつの間にか煙はなくなっていた。

先生の後ろを覗き込めば中身のなくなった大鍋。

「・・・・・空焚きしたんですか」

「・・・・・・・・」

黙り込んだ横顔をみれば居心地悪そうな表情。

「どうせ薬完成して、柄にもなく浮かれて、うっかり火を消し忘れてたんでしょう」

ぐっと詰まったスネイプには仕方ないなあと溜息をつく。

「その格好で歩かれたら汚れますから私がお風呂の準備しときますから」

ローブ脱いで適当に拭いといてくださいねと言えば大の大人、しかもあのスネイプは素直にこくりと頷いた。

しかたないと風呂に湯を溜めながら今日の御飯はどうしようかと久々に一緒の夕飯の用意に心を飛ばした。



























「さっぱりしましたね」

シャワーを浴びていたかも疑わしい。

研究馬鹿だからなあ。

「ああ。そういえば課題は終わったか?」

「暑い上にこんな鍋がグツグツ煩くって勉強とか進みませんって」

テーブルに簡単な料理を並べる。

夕飯の買い物はどうしようかと作った料理を食べながら考える。

後で買出し行こうかな。

「ポッターの所へ行くというのは?」

「え?あれは全く勉強が進まないから気分転換しようかなって思ってですね」

目の前で不機嫌そうなスネイプ先生に冗談ですよと笑う。

うん、またでいいや。

「では今日はどこかへ食べに行くかね」

「機嫌がいいですねー」

もしかしてお給料日ですか?それとも薬の完成が嬉しかったとか?

その問いには答えずにスネイプは綺麗に料理を食べ終わった。

「課題は今日中に済ませるのだな」

その言葉に渋々ながらも返事した。

灯りの向こう側で御飯を食べてくれる存在にこんな夏もいいかもしれないと思って。

夏休みの終わりはすぐ其処まで迫ってた。

初めて会った日まで幾日か残した夏のある日の出来事。