「ここは何処だ」
スネイプが暖炉に飛び込んだのはいいが慌てていたせいかそれとも誰か管理している者の手違いか変な場所に出ていた。
「おーう。貴方もサンバ踊りますか?」
異世界かここは。
背の高いやけにゴツイ女性達に囲まれる。
声もハスキーボイスで。
露出度の高い・・・というか隠す部分の方が少ないトンデモナイ格好だ。
「隠すなんてそそるわア」
バチン
ウィンクにくらりと目眩がする。
スネイプが出たのはロンドンの空港間近の暖炉ではなく海を越えたアメリカの町おこし祭りが行なわれている場所だった。
「・・・・ゲイ・パレード!?」
「貴方もそうなんでしょ?隠さないでその白い肌を晒すと快感になるわよー」
がっちりと掴まれて微笑まれる。
「ノーサンキューだ!」
キャア、白い肌ーと叫ばれて杖を出そうとするがここはマグルの街で結構大きな祭りだ。
サンバの踊りに踊っているのが綺麗な女性ではなく綺麗に着飾ったゲイの人々というのがしょっぱいが。
「くっ・・・!」
婚約者の少女よりも先にスネイプ自身が危機に陥ったようである。
「レン兄?」
「ああ。だろ?綺麗になったなあ!」
手放しで褒められると恥ずかしい。
それが憧れていたお兄さんならなおさら。
「今は高校卒業だっけ?」
学ラン姿の連に憧れていた女の子は多かったのにねと言えばお世辞が上手くなったなあと頭を撫でられる。
「は今イギリスの学校だっけ?」
「うん」
マグルじゃないけどねと心の中で呟く。
「九月から三年生」
「俺は今は大学一年なんだ」
有名大学の名前を挙げられて凄いねと素直に感心する。
しかしまじまじと見つめられる連兄には居心地の悪さも感じた。
「で、どうして連兄がここにいるの?」
にっこりと笑うとにっこりと笑い返される。
うーん誤魔化されそうなくらい素敵な笑顔だ。
「ウチの叔母さんが用があるらしいよ」
「私に?」
連の叔母といえばザマスと語尾につけてもおかしくない女性だったなと思う。
「そんな表情するなって。食事会だと思えばいいさ」
なっと笑いかけられて仕方なく頷く。
「でも私が食事会に行ってどうなるの?」
バタンと扉を閉じられた車の中で聞いたけれど連兄は何も笑うだけで返事をしてくれなかった。
「お久しぶりね、のお嬢さん」
にっこりという笑い方の本人はつもりだろうけど愛想笑いだというのが丸わかりな感じ。
「お久しぶりです」
一応目上であるので挨拶だけはしておく。
用件次第では帰るつもりだけど。
「で、何ですか?用って」
率直に切り出したけれどウフフと笑われただけだった。
カンジワルー。
「お食事にしましょう。ここは和食がお奨めなのよ」
いそいそという足取りで向かった先には五人分の食事と二人の男女が座ってた。
「・・・・・リン?」
「・・・・・ああ」
座って制服を着ている少年があのいじめっ子だとはどうしても結びつかずに驚く。
「今、中三?」
こくりと頷く凛の頬が何故か少し赤いけど私の注意は隣に座る美少女に目を奪われた。
「凛はもうご存知ね。連とは似てないけど成績は似ているのよ。こちらは私の養女の佐知子さん」
「はじめまして、佐知子さん」
ぺこりと挨拶をすれば連兄の声がかかる。
「何言ってんだ。お前と仲良かっただろう?」
「覚えてないかしら?」
こんな儚く綺麗に笑う人を知っていただろうか?
すとんと佐知子さんと叔母さんの間に座った連兄を見てようやく思い出す。
「佐知子ってさちこお姉ちゃん?」
「久しぶりちゃん」
近所に住んでいて元気にしていた頃とあまりも違う姿に言葉が出ない。
「さあさあ、挨拶はそこでやめにして御飯をいただきましょう」
一応和やかに食事会は始まった。
時々向けられる視線が何を指しているかを知らず私は贅沢な料理を堪能したのだった。
「・・・・くっ。酷い目にあった」
手の甲で頬を拭うと赤い口紅が取れた。
顔を洗って鏡を見る。
これでやっと人前に出れる。
暖炉を探すがないので諦めてタクシーで空港へ向かった。
飛行機のチケットを見れば何故だかチケットにはロサンゼルス→日本。
「わかっているなら最初から注意をしろ!」
災難を知っていたとしか思えない友人のチケットの手配に苦々しく呟く。
「釣りはいらん」
渡した紙幣を運転手はちらりと見ていった。
「・・・・・言いにくいんですが」
「なんだ!」
「足りません」
指差されたのはメーターで。
確かにドル紙幣が数枚足りない。
「くそっ」
多めに紙幣を抜き取ると叩きつけるように渡して車外へ出た。
暑い日差しにくらりときた。