「そろそろ限界みたいだから今日呼んだ理由を言いましょうか」
連兄と凛の叔母さん(アヤコさんというらしい)がデザートを食べ終わってから言った。
それまでは一応世間話をしていたのだけれどマグルの学校に通っていると思われているので誤魔化すのも一苦労だ。
「学校では何を習うの?」
「魔・・・・じゃなくてマイクロ粒子とか」
「寮に入って友達は?」
「血みどろ・・・・・いやースプラッタなホラー映画好きが多いのよ!」
「勉強はどこら辺まで?」
「箒・・・・そう掃除の仕方とかかしらっ」
花嫁修業の一環としてねっオホホホと笑って誤魔化すのも限界に来ていた。
「実はユウコさんと連に婚約してもらおうと思うの」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はあ!?」
寝耳に水、思いっきり水、しかも一滴どころじゃない感じな言葉についつい聞き返してしまった。
「もう一度言うわね。ユウコさんと連にこ・ん・や・く、して貰おうと思って」
一応この席ってお見合いだったのよ~コロコロと音が出そうな奇妙な笑い方にへぇと言った。
いや、理解したんじゃなく言っただけだけど。
「あの、私には婚約者いるんですけど」
一応このオバサンに言って見る。
「それは貴方のお父様が勝手に決めたことでしょう?このお話にはとてもとても深いわけがあるの」
聞きたい?
そう聞かれて聞きたくないといいたくなるのは私だけだろうか?
色々反論したい事はあったけれど喋りたそうで仕方なさそうなアヤコさんに喋り場を与えるべく言った。
「お題をどーぞ、アヤコさん(43)」
ちょっと年齢を言ったせいかむっとしたみたいだけどこほんと咳を一つして話し出した。
「くっ・・・・何故こんな目に」
スネイプは空港・・・ではなく病院にいた。
看護婦が苛々と歩きまわるスネイプに微笑ましいというスネイプに向けられるにしてはとても珍しい種類の笑みを向けて言う。
「お父さん、赤ちゃんはもうすぐ生まれますから」
「我輩の子ではない!」
本当の事をいっただけなのだがとんでもないことを聞いてしまったと顔色を変えた看護婦は慌てて立ち去った。
今頃ナース達の間に「あの空港で運ばれてきた妊婦のお腹の子供は旦那の子じゃないらしいわよ」と噂が立っていることだろう。
空港で出発ゲートを確認していたスネイプはベンチに座って一息ついたのだが隣に座っていた女性がぎゅっとスネイプの腕を掴んで言ったのだ。
「う・・・・・・・生まれる」
何が?
聞き返さなくともわかる。
聞き返したくないけれどわかってしまう。
残念なことにわかってしまったのだ。
その女性のお腹を見れば妊娠している事は明白で腕を掴んで離さない女性に仕方なく救急車に同乗していたのだが。
「まだマイケルは来ないのか!?」
スネイプは苛立ちながら叫んだ。
マイケルというのは今、出産している女性の旦那で海外出張から今日帰ってくる予定だったらしい。
まだ二週間予定日が先立ったのにとマイケルの馬鹿と夫がいないのを痛みからか叫んで怒鳴る女性は今必死で出産に臨んでいる。
会社に連絡を入れたらそっちに向かったとだけ言っていたが。
「ミザリー!ミザリー!?」
病院だというのに大声で叫ぶ男がいた。
「マイケルかっ!?」
「そうだっ!?」
あの女性はミザリーと言う名だったのかと思いつつここだと分娩室を指し示す。
中には消毒しないとはいれないため慌ててマイケルは帽子を被り白衣を着た。
右手にはしっかりビデオを持って。
「ミザリー!!」
その声が入るか入らないかの内に元気な赤ん坊の声が聞こえた。
バチン
空港の人気がない場所に姿現ししたスネイプは搭乗時間ギリギリでようやく飛行機に滑り込こんだ。
その後、病院のナース達の間では『旦那は子供の父親に奥さんと子供を託して姿を消したわ』という三流ゴシップのような噂が広がったし
マイケルとミザリーは子供の名付け親になってほしかったと嘆き、
スネイプは本人が知らぬ間に守護天使にまで祭り上げられ小さな記事として紙面を飾ったのである。
「理由はね、ユウコさんのお祖母様と私のお父様、連と凛のお祖父様よ」
初耳な話にはあ・・と聞き返す。
「あなたのお祖母様は私のお父様の婚約者だったの。けれどどこの馬の骨かわからない輩と結婚なさって!」
「はあ」
「ユウコさんのお母様と本当は私が男だったら結婚できたのだけれどと何度も言われたのよ」
連と凛の父親、アヤコさんの兄は早くに結婚して早くに亡くなっていた。
「そのお父様の遺言なの」
びしっと指を突きつけられる。
「ユウコさんと結婚したものに家督を継がせるって」
「はあ!?」
トンデモナイ話に驚いただけなのだが何故かアヤコさんは嬉しそうだ。
「嬉しいでしょう?ユウコさんも連が好きよね?憧れていらしたでしょう?」
嬉々としているアヤコさんに申し訳ないが口を挟む。
「すいませんけど私の婚約者って・・・」
「いいの、言わなくともわかっているわ」
アヤコさんは自分に酔っているのか話を聞いてくれない。
助けてと視線を向ければにこにこ笑ってる連兄と頭を下げる佐和子お姉ちゃんとむっつり黙っている凛。
「お父様の初恋と遺言は私が叶えて差し上げるわ」
アヤコさんは星にでも誓うかのように指を高く掲げた。
あいにく天井には星などなくあるのは照明だけだったけれど。