「三Aの・・・・・ここか」
ビジネスクラスではなくファーストクラスの乗り心地は確かに良くてスネイプは数十分後には眠りに落ちていた。
ざわざわと不安そうな気配に目が覚める。
目を開ければ黒いスーツを着た数人の男が武器を片手に脅しつけていた。
「動かないで頂こうか」
その男の後ろにいるのが主犯らしい。
一般的に理知的とも知性的とも見れる容貌に一筋縄ではいかなそうだと思う。
「これからこの飛行機には中国に向かってもらう」
「それは困る!」
ファーストクラスにはスネイプの他に一人だけ男がいた。
ジャケットが茶色で彫りの深い視線の鋭い男だ。
慌てて口を噤んだ男は武器を向けられたのが噤んだわけではなさそうだった。
「いけない・・・・今のは神の独り言だ」
ブツブツと呟いているのが見れた。
いかにも怪しい男だと思っていたら武器を向けられた。
「いかにも怪しい・・・身体検査をさせて頂こうか」
あっちの方が怪しいだろう!と言いたかったがここで魔法は使えないので仕方なくローブを脱いだ。
部下達はコックピットと機体の後ろ、ビジネスクラスへと行ったらしい。
主犯の男一人が相手で武器は銃のみだ。
もう一人のヤツが何かしてくれればとちらりと見ればウィスキーを口に含んではグラスに戻してる。
使えん奴め!
そう思って懐の杖に手を伸ばしたとき声がした。
「見つけたわよ!ハンス!」
飛び込んできたのは小柄だが美しい女性。
「もう来たのかい?」
嬉しげに笑う男は銃を弄びつつ女性に意識を向けている。
「私が貴方を捕まえるといったでしょう!?」
杖をこっそりと振って姿くらましをした。
バチン
遠くであの奇妙な男がちらりと見ていたのが見えた。
「後は若い二人で・・・」
ドラマでの決まり台詞に現実でもこんな事あるんだあと思いつつ取り残される。
ていうか佐和子お姉ちゃんも凛もアヤコさんよりは若いけどね!
私は特に抵抗もせずその場に残った。
だって生徒は休みの間は魔法が使えないらしいし。
ホグワーツ退学になったら日本で高校受験の勉強始めなくてはいけないのだと思うと魔法を使うのは控えようと心に決める。
今更数学の勉強は謹んで遠慮させて頂きたい。
アヤコさんの嬉しそうな笑顔より、佐和子お姉ちゃんの何か言いたげな眼差しと凛の睨んだ視線が気になったけど。
目の前の連兄はにっこりと笑ってる。
「連兄は叔母さんと同じ意見なの?」
「そうだね、ちょっと歩く?」
口が言葉を紡がず形のみを作る。
『たぶん、聞かれてる』
「うん」
あのアヤコさんなら襖の向こうでコップに耳を当ててても仕方ない気がして頷いた。
「ここは何処だ」
スネイプは姿現しで出現した場所に戸惑っていた。
「全く秘書の君がしっかりしてくれなければ私が困ってしまうよ」
目の前を少し年の離れたカップルが横切っていく。
「でもハリー?奥さんに・・・」
「すまないがここは何処か教えてくれないかね」
女性の声を遮る形で声を掛けたスネイプは男にむっとした表情で睨まれた。
女性に見せていた表情と違い酷く冷たい視線に二面性を感じる。
まあ熱い視線を向けられてもそれはそれで困るのだが。
「ここは六本木ヒルズですよ」
にこりと笑う女性に礼を言って立ち去ろうとする。
魔法使い用のバスが日本にもあるだろうかと思いながら。
「君は私だけを見ていれば良いんだよ」
ハリーと呼ばれた男が女性を引き寄せて口付けているのを視界に入れて溜息をついた。
美人だがかわいそうに。
スネイプはそう思いつつナイトバスを呼ぶために人込みのない場所へと足を向けた。
ハリーと呼ばれた男が女性を愛してないのだろうと察したのはそのキスの合間に酷薄そうに笑ったのを見たからだが。
それを見てどうこうするほどスネイプは他人に興味もなく。
暫くしてやって来た乗り物に乗り込んだのだった。