「あんなこと頼まれてもなあ」
連兄から昨日聞かされた言葉には酷く悩んでいた。
『婚約って言っても形だけだから。俺は時間が欲しいんだ』
真摯な瞳で頼み込まれるけれどちょっと考えさせてと頼んだ。
本当ならすぐに断るつもりだったのだけど連兄に
『今断ったら俺はを無理矢理抱けって言われるよ』
ロリコンじゃないし、しないけどなと言われて保留にしたのだ。
そして今は何故だか着物なんか着せられている。
これって凄い苦しいんですけど。
「よく似合うわ、ちゃん」
そう言ってくれた佐和子お姉ちゃんの方がよっぽど綺麗だとは思った。
清らかで美しい。
「気分でも悪いの?」
顔色の悪さに聞くと元々よと笑い返された。
今日の佐和子お姉ちゃんは透き通るくらい儚い感じがする。
「、ちょっと来いよ」
扉の向こうから声がした。
「何?凛」
幼馴染はを見て一瞬ぽかんとしたがすぐに手を取って歩き出した。
「話がある」
これは昔苛められた仕返しにしたことの仕返しかな?
杖を使わない事を心に決めてかかってこいやぁと黙っていれば可愛らしい日本人形のような少女は闘志にこっそり火を付けたのだった。
「お客さん、ここですよ」
車掌は気分が悪くて口元を押さえてるスネイプをゆすゆすと揺すった。
「・・・・・もう少し安全を優先した方がいいぞ」
フラフラになりながら降りたスネイプの頭には多分三つは瘤が出来ている事だろう。
「大丈夫だってお客さん。あんたの髪の量じゃ少しくらい禿げたって」
「余程命が・・・」
惜しくないものとみえるとスネイプが全てを言い終わる前にナイトバスは消えていた。
確かにの元へ速さ優先でと言ったのは自分だが。
目の前にそびえ立つ巨大なホテルに視線をやるとゆっくりと歩き出したのだった。
「は連と婚約するのか?」
いきなり叩きつけられるような言葉に凛がお兄ちゃん子だったことを思い出す。
「うーん。成り行き上?」
「馬鹿じゃないのか!?」
言われた言葉にむっとする。
「なんで私が馬鹿なのよ。どっちかといえばこんな話を持ってきたアヤコさんとか了承した連兄とかの方でしょ」
肩を竦めて言えば凛はぐっと詰まったように黙り込んだ。
「とにかくお前は大馬鹿だ!」
言い捨てて去っていく凛の姿に呆気にとられた。
何が言いたかったんだ、奴は。
私が馬鹿って事はわざわざ言われなくてもわかってますよーだ!!
プンプンと後から湧いてきた怒りに任せて近くの石を思い切り蹴った。
バリーン
「誰か!国宝の壺が!!」
大騒ぎを耳にして着物の裾を翻して慌てて逃げたのだった。
結納の手引き。
一、まず男性側が正面床の間に向かって右側に父・母・本人の順で着席。
二、やや遅れて女性側が左側に座る。
三、仲人夫妻着席。
四、仲人の取次ぎで昆布、スルメ、鰹節等の謎に包まれた9品目を取り交わします。
あー漫画って結構勉強になるのね。
はぼんやりと思った。
あの名作を読んでなければ結納なんて気がつかずにこの場にいた自分を想像できて怖い。
多分変な儀式だねと思ったはず。
いや、今も思うけど。
私の家族って言っても父親だけだけど呼ばれてないし連兄と凛の両親も亡くなっているから仲人にアヤコさんの知り合いとか言うおじさん夫婦だけ。
私の隣には佐和子お姉ちゃん。
連兄の隣には笑顔のアヤコさんと不貞腐れた様子の凛。
「本日はお日柄もよろしくおめでとうござ います。西城様からのご結納の品でございます。幾 久しくお納めくださいませ」
そう言って仲人役のおばさんから差し出される。
「有難く拝見させていただきます」
そう言った佐和子お姉ちゃんの顔は真っ青だった。
「見なくていいです」
口から零れた言葉に佐和子お姉ちゃんの優雅な動きが止まった。
連兄の表情の硬さに溜息を吐く。
「スネイプ先生!出てきてください」
きっと来てくれると信じて名前を呼んだ。
出てこなかったら私、退学になっちゃうなあとこっそり杖を握り締めながら。