日が落ち始めて夕暮れの街が窓越しに見える部屋で二人はいた。
「・・・・・んっ・・・・・ふっ・・・・・」
「いいぞ・・・」
ぎしりとベッドが大きく軋んだ。
「な・・何をしているのっ!」
扉にコップをつけて古典的な盗聴をしている義母と従兄弟を見て佐和子は声を上げた。
扉はとその婚約者という男が居るはずの部屋で。
「凛が気になるっていうから」
おほほほほと笑いながら耳につけたコップを背中へ隠した義母に佐和子は溜息を吐く。
佐和子に着いて来た連がその後ろでへらりと笑った。
ホテルマンが見てはならないモノを見てしまったとオロオロしている。
「あっ・・・・」
凛の声にアヤコは勢いよく飛び出した。
バターン
扉が騒音を立てて開けられた。
「なんて破廉恥なの!?このロリコンを捕まえて頂戴っ!!」
「っ!無事か!?」
飛び込んできたのはアヤコさんと凛。
その後ろから頬をぽりぽり掻いて微妙な表情の連兄と真っ赤な顔の佐和子お姉ちゃん。
そして青褪めているホテルマン。
「あれ?団体でどうしたの?」
「・・・・・煩い」
飛び込んできた一同が見たのは着衣に乱れなど微塵もなくマッサージしていると
やや乱れているが寝ているせいであろうこと丸わかりのうつ伏せでマッサージを受けているスネイプの姿。
「あら・・・・・」
「よかった。無事だったんだなっ!!」
ガッカリしたかの様な表情のアヤコさんに安心している凛。
肩を竦める連兄とますます真っ赤になった佐和子お姉ちゃん。
そして良かったですと去っていく清清しい表情のホテルマン。
煩悩を捨て去ったかのような笑顔の理由を400字詰原稿用紙に書いてほしいものだとは思った。
「何?何か用ですか?」
きょとんとしているに慌てて皆が退出する中スネイプだけはのんびり寝そべっていたのだった。
「さっきのなんだったんですかね?」
背中を押しながら尋ねるとくぐもった声が聞こえる。
「どうやら・・・我輩がお前にイタヅラ・・・でもしていると思ったようだな」
ぐっと力を込めて肩を押されると強張った筋が解れてゆっくりと息を吐く。
「イタヅラって嫌がらせとかですか?」
わかってないに何故我輩がと思いつつ答える。
「性的虐待だろう」
「せっ・・・・!」
ザザザっと音を立てて遠ざかった少女に苦笑する。
「我輩はまだ手を出すつもりはない。こんな場所で捕まりたくはないしな」
「そうですよねー」
あははははーと笑うはまだという言葉を全く気に留めても理解してもなかった。
「で、お前の父親はどうしてお前一人をここに?」
「あー忘れ物したからってスイスの銀行へ行きました」
ちなみにお土産にハイジのチーズを買ってきて欲しいと頼んだと話す。
「こうですね、パンの上にチーズのせてトロトロになった所をハイジが食べるんです」
宮崎監督関係の作品は食事が美味しそうなんですよと説明する。
「美味し糧!ですよ」
「馬鹿手?」
こんなコントのような会話をホグワーツの面々が聞いてなかったのは運が良かったかもしれない。
しかもベッドで寛ぐスネイプの背中にが乗っている状況は特に。
「それでお前は父親に一人で大丈夫だから忘れ物を捜してこいとついでに土産を買ってこいと言って送り出したのか」
「平たく言うとそうです」
「馬鹿者」
「だって一気に結納なんて誰が考えますか」
家族もいない結納なんてあり得ないんですよと日本古来の儀式について説く。
「何故海産物ばかりを交換するんだ?」
「さあ?なんででしょうね?」
肩を竦めて見せる。
どうせ交換するなら交換ノートとかにすれば面白いのにと思う辺りである。
毎日天気と温度とスネイプ先生の観察日記を書いて見るのにとこっそり思っていたりする。
スネイプマニアに売れそうだ。
・・・・いるなら。
「まあいい。お前は我輩を見てればいい」
いつの間にか抱き寄せられていた。
「あのっ・・またアヤコさんが来たら・・・」
「鍵は閉めた」
いつの間にという感じだがさっきそういえば杖を振っていたのがそうかと納得する。
「暫く寝るから部屋から出るときに起こしなさい」
「えっ・・・あの・・・」
腕の中に閉じ込められて部屋から出るって無理なんですけどと思いつつまあ良いかと瞼を閉じた。
薬草の匂いがするローブと温かい腕と自分より僅かに遅い鼓動。
ゆっくりと思考は闇へと落ちて行った。