スネイプ先生は死んだように眠ってる。
だんだん腕が締まってくる気がするんだけどっ!
これってハグでなくプロレス技の一種!?
抜け出そうとしたらますますきつくなったので最後の手段を取ることにした。
「・・・・・ぐはっ」
ベッドの上で低く呻きわき腹を抱えて転がっているスネイプ先生。
「秘儀、縄抜けの術っ!!・・・て縄じゃないし」
なんて事はない少しだけ強く鳩尾に肘を一発入れただけ。
緩んだ腕から抜け出して見やれば眉間に皺。
ギリギリ歯を鳴らして呻いてる。
「・・・・・ポッターぁぁぁぁ」
怖っ!
運良く目覚めなかったスネイプ先生を見ながらぽつりと呟く。
「どんな夢見てんですかね」
夢の中でハリーが減点をされてないといいなあと思いつつこっそり部屋を抜け出した。
時間は夜の11時。
1階のロビーに降りて中庭へ向かった。
ホテルから出てはいけないと念を押されて一人では出ないスネイプ先生と約束した。
一人で自分の部屋へ戻る気にもなれず月明かりの差す中庭へと視線を向けた。
「・・・・・・・・・じゃない」
夜も更けたというのに人の声。
妖怪じゃないよねと頭に浮かぶのはありえないミニマムサイズの父親と下駄をならす男の子。
英国には血みどろ男爵がいて舞浜の鼠園には彼の従兄弟がいるのだから妖怪だっていてもいいかもしれない。
「ネズミ男は嫌だなあ」
いるのは舞浜のミッ○ーマ○スだけでもう十分。
「・・・・・・・・が好きだ」
「・・・・・・・・・・ええ、わかっているわ」
よくよく耳を澄ませば男女のようで邪魔したら悪いしと引き返そうとしたら興味深い単語が聞こえた。
「の事は・・・・・・・・・」
「私には何もできない。ごめんね、連」
連!?
「佐和子っ!俺には君が・・・・・君がどうしても必要なんだ!!」
・・・・・・・・・私はくるりと回れ右して一目散で逃げ出した。
「連兄と佐和子お姉ちゃんって両思いだったんだ」
背中越しに見えたのは月明かりに浮かび上がる二人の影。
きっと自分との話が連兄に出たときにアヤコさんに恩がある佐和子姉が連兄を振ったのだろう。
自分も連兄を好きなくせに。
アヤコさんを説得しなきゃ。
私にはスネイプ先生が、連兄には佐和子姉がいるってことを。
ラスボスに対決する勇者みたいな心意気でアヤコさんの部屋の扉をゆっくりとノックした。
「アラホ・・って魔法使っちゃいけないんだった。・・・・失礼します」
返事がない部屋にゆっくりと入る。
手にはヘアピン一本。
良かった部屋から逃げ出す練習してて。
忍び込んだ部屋は自分の部屋と同じくらいには広い。
スネイプ先生の部屋が狭いのはきっと嫌がらせだろう。
まったくちっとも先生には効いていなかったけれど。
ベッドの上に静かに眠るアヤコさんがいた。
その顔色はスネイプ先生より悪い。
「・・・・・お父様」
つう・・・と流れた雫に見てはいけなかったものを見た気がした。
小さな書き物机の上には寝酒のグラスと開かれた手紙。
いけないことだと知りながらついつい読んでしまった。
『遺言書
彼女の孫、家の娘を守った者にこの家の全てを残す。
この遺言が無効となるのは家の者が私が送ったモノを返した時とする。
それを燃やして欲しい。
遺言が守られなかった場合は財産は全て国へと返還する』
「・・・・・・・・・守った者?」
それが結婚とイコールで繋がれるのか。
アヤコさんのお父さん、連兄と凛のお祖父さんが祖母に送ったモノとはなんだろう。
遺言執行日はあと一週間もない。
アヤコさんが必死になった理由が垣間見えた気がした。