「暇・・・・・」
ふぁと欠伸が出た。
昨日結局アヤコさんの部屋を出てから自分の部屋に戻ったのだが一睡もできなかった。
自分を守ることをどうして「彼」が条件としたのかがわからない。
「眠そうってことは・・・・・お前何もしてないだろうなっ!」
「我輩が婚約者に何をしようが我輩の勝手だろう」
耳元で凛とスネイプ先生の口論が始まった。
ていうか凛って凄い。
スネイプ先生にお前呼ばわりだし。
マグルって凄いなあと思いつつ黙っていたアヤコさんが口を開こうとしていたのを見ていた。
「さん、一晩じっくり考えて気が変わったでしょう?そちらは凛と口喧嘩するような大人気ない人間で歳も離れすぎてるわ。
それより若くて男前で将来性十分な連の方が貴女も幸せになれると思うの」
にっこり。
「・・・・・あの」
「連ってば何か言ってあげたらどうなの?」
「・・・・・あのー」
「ほら、連?」
「あのっ!!」
「アヤコ叔母さんっ、俺はっ!」
私の声と連兄の声が重なった。
「連兄は佐和子お姉ちゃんが好きなんだよ!!」
「ずっと言えなかったけど俺は・・・・俺はゲイなんだっ!」
・・・・・・・・はあ!?
噛みあってない。
全く噛み合っていない。
「嘘っ!?」
「俺が佐和子を好き???」
静寂が部屋を満たしていた。
「連・・・」
それまで浮べていた笑いは消えて驚きつつも真摯な瞳で連兄はアヤコさんを見つめた。
「俺の秘密は・・佐和子・・・佐和子しか知らなかったんだ」
その時は驚きつつもやっと不可解だった部分が埋められていくのがわかった。
時間が欲しいと言った連兄。顔色の悪い佐和子お姉ちゃん。
二人とも同じ理由で悩んでいたのだ。
回想中。
「俺は・・・俺は男の人が好きだ」
「・・・・・・・・・・ええ、わかっているわ」
「の事は妹としか思えない。その上俺は女は・・・」
「私には何もできない。ごめんね、連」
「佐和子っ!俺には君が・・・・・君がどうしても必要なんだ!!」
・・・・・・・・秘密を守るために。
回想終了。
不思議発見。スーパーひとし君でここは勝負のところでしょう!!
「連兄は女性は駄目なんだよ、アヤコさん!!」
若干修正したの言葉にアヤコさんは驚きつつもでも・・・と言った。
「そんなっ!・・私には許してあげたいけど・・・お父様の・・・」
いや、そんな許すとかいうレベルの問題?
の思いは自慢の甥の思ってもない嗜好で驚いてるアヤコさんには伝わらなかったようだ。
ノーマルで完璧な甥が実は男好きーな男の人だったのだから衝撃はいかほどだろう。
測定器があれば測定希望。
「ごめんなさい、お義母さん。私・・・連の秘密をずっと黙っていたの」
連のことを友人として好きだからと佐和子お姉ちゃんは笑いながら告げた。
その微笑みはとても綺麗だった。
そう、憑き物が落ちたかのように。
「・・・・・佐和子、貴女・・」
大騒ぎである。
アヤコさんは茫然自失。
連兄は苦笑して佐和子お姉ちゃんはすっきりした表情。
スネイプ先生は茶番だとでもいいたげなウンザリ表情で凛はパクパク金魚のように口を開け閉めしている。
ホテルマンはやベーこと聞いちまったよと顔に書いたまま立ち去った。
「ここだったんだ」
ひょこりと立ち尽くしていたスネイプ先生の後ろから顔を出した人物には驚いた。
タイミングが良いんだか悪いんだか。
はっきり言って衝撃の前にいて欲しかった。
「父さん!!」
「ごめん、遅くなって」
父親は娘に謝って頭を掻きながらアヤコさんに封筒の束と箱を手渡した。
「これで遺産相続も大丈夫」
の祖母からの詫び状と連兄のお祖父さんでありアヤコさんのお父さんの書いたらしき手紙と護符。
そして箱の中には小さな、けれど永遠の輝きの宝石付きのリング。
「引越し荷物に紛れて失くしたかと思ったよー」
焦ったよと言いつつやけにのんびりした声にスネイプは絶対焦ってなどいなかったろうがっ!!と怒鳴りつけたかった。
歯は不興和音をギリギリと奏でている。
「・・・・・アヤコさん」
暫くして私は手紙を読み終えたアヤコさんに声をかけた。
「その・・・守るってイコール結婚じゃないと私は思うんですけど」
その言葉にぴくっと反応したのはスネイプ先生だった。
「そう、貴女も遺言の内容について知ったのね。・・・そんな顔しなくてもいいですよ。ちゃんと謝って頂いてるから。
私は納得しました。連・・これからどうするの?」
アヤコさんは居住まいを正して言った。
自慢の甥のドロップアウトにも寛大に対処する辺り肝っ玉母さんの素質があるかもなんてが思った瞬間。
「実は・・・俺にも言いたいことがあって・・・・・俺にも運命の人が現れたんだ!」
目の前でひしっと抱きついた連兄の相手には嘘っと叫んだ。
連兄はキラキラ綺麗な、それこそ見惚れそうな笑みを浮べて箱の中のリングを手に取った。
「俺と結婚してくれませんか?」
一生幸せにしてみせますから。
差し出されたリングはどう見てもスネイプ先生にはピンキーサイズ。
「・・・・・我輩にはそんな趣味はないっ!!」
スネイプの心の声は叫び声となってこだましたのだった。
「、俺と付き合ってくれ」
凛の言葉に目を丸くする。
「あら、凛とちゃんもいいかしらね」
なんていうアヤコさんの声が聞こえた。
連兄がの婚約者じゃなかったらなあなんて言葉も聞こえた。
凛の言葉にスネイプ先生はふんと鼻で笑った。
「付き合うも何もの婚約者は我輩だ」
うひゃー、先生が別人28号!!と逃げるとそれを余所に暫くスネイプと凛がにらみ合っていたのをのほほんと見つめる父親の姿があったのだった。
アヤコさん達と別れてホテルをチェックアウトする。
「誰から私って守られるんですかね、あの遺言?」
「あの女性は我輩からとでも思っていたようだがな」
アヤコさんのいう所によると連兄と凛のお祖父さんは予知が出来たらしい。
ある時期からだんだん弱くなって亡くなる前には殆どその能力は無くなっていたらしいが遺言書の日付はスネイプ先生と出会った頃。
二年前の夏の時期だった。
隣には遅れてきた父親がスネイプ先生に話しかけている。
「到着はやけに遅かったんだね」
もう少し早く来れる日程じゃなかった?と言う父親の言葉にそうなの?と見つめると苦々しい表情。
思い出したくもないという呟きが聞こえた。
「散々な目にあったからな」
「へえ・・・ああ、僕はこれからまた仕事だから」
父親は別れの言葉を告げると立ち去った。
きっと人目のない場所で姿くらましするのだろう。
なんの仕事をしているのか秘密主義にも困ったものである。
『大丈夫。人として恥ずかしいことはの父親として絶対にしないから』
母親が死んでから父親の職業を聞いたときの約束の言葉。
「またあっと言う間に二人ですね」
「騒がしいのはもうごめんだ」
黙っていたことを告げてカミングアウトしたせいか連兄に迫られまくっていたスネイプ先生は肩をゴキっと鳴らした。
その手が連兄を選ばなかったことが嬉しい。
「先生の肩も揉んであげましょうか」
「・・・・起こし方を手加減するなら構わん」
まだ痛むと言うスネイプ先生にプロレス技をかける方が悪いと睨む。
大体添い寝なんてするなんて聞いてなかったし。
「お前の父親にも馬鹿にされた」
ぼそりと告げられた言葉にえっと驚く。
「なんでですか?先生何か馬鹿にされるようなとんでもない失敗したんですか?まさか間違って女子トイレ入ったとか?」
呆れたという視線になんでですか?と纏わり着くと当ててみろと笑われた。
ちょっとだけ久々に見たスネイプ先生の笑顔に見惚れながら連兄の趣味は結構いいかもと思う。
「帰ったら研究の再開だな」
「私は宿題しなきゃですよ」
空港へ向かうスネイプの後ろへ歩きつつが告げた。
「凛がホグワーツに来たいって言ってました」
「マグルは来れないとでも言ったかね」
ふふんと余裕の表情のスネイプに対しては笑顔を浮べている。
「実は凛ってボンバートン校生らしいですよ」
ホグワーツ以外に学校あるのは知りませんでしたけど、転校って出来るんですかね?というに
「・・・・・来たら後悔させてやろう」
そう笑って言ったスネイプだった。
戦いは始まったばかりであり、まだまだ夏は始まったばかりである。