おとーさまは世界一かっこいいです。
が部屋の整理をしていたらひらりんと落ちてきた紙。
書いてあった内容は魔法界でも一目置かれているマルフォイ家当主の父親を誉め称える娘=私の作文。
なんでこんな所に、と思わずにはいられない。
きっと(絶対)下僕妖精がいれたのだろう。
ああ、余計なことばかりするのだから!
もちろんホグワーツに入る前だから貴族の子息・令嬢がわらわらといた場所に通っていた頃。
ませていた私はこんな鼻水を自分で拭くこともできない男の元に嫁ぐのだろうかと同輩達を冷ややかに見ていた。
純血を良しとする風潮から遡れば皆親戚と呼べるだろう。
母親からレディーの嗜みのいくつかを教えてもらっていた私はため息をつきたいのを堪えて毎日を過ごしていた。
ある日の事、翌週に父兄が集まるともあって宿題が出された。
私たち年長のものには作文で両親について、弟、ドラコのような年少クラスは両親の絵、
他のクラスに知り合いはいなかったからわからないが多分それらしい宿題が出されたことだろう。
帰宅して父親に挨拶に向かった。
「おとーさま、只今帰りました」
中にはいると手招きされて近寄れば膝の上。
「何か変わったことは?」
「とくに・・・あ、宿題があります」
覗き込まれた父の瞳は当主の時に見せる鋭さは隠れ柔らかい眼差し。
私は当たり前のように受けとめて来週の参観日に発表するのです、と真っ白の原稿を差し出した。
「おかーさまの素敵なレディーの心得を皆に発表しようと思ってます」
そう言って父親の部屋を辞そうとしたら引き止められた。
「私のことを書いてはくれないのか?」
「おとーさま、ですか?」
幼い頭で考える。
「おとーさまが口説くのがじょうずだと皆さんに知って頂きたいんですね」
慌てたような父親は真っ白の原稿を机のうえに置いて私がいうことを書きなさいと言った。
たどたどしくも言われたとおり書いた作文はおかーさまの話ではなくおとーさまの話で埋まってしまった。
悲しい気持ちでいっぱいだったが参観日に皆の前で読まされるのはもっと嫌だった。
「・・・だからわたくしはおもうのです。おとーさまは世界一かっこいいです」
あの時拍手を受けて壇上から降りる時の父親の誇らしげな表情を忘れられない。
「あれは娘に自分をいかに素晴らしいか賛美させ、且つ私の頭が良く将来有望な魔女になるかを知らしめる策だったのよ!」
大広間でグリフィンドールの知り合いに愚痴る。
スリザリンでは誰も恐がって私に近づかないから。
幼き日のトラウマはそう簡単に消えてはくれない。
「それって単に娘からこんなに愛されてるんだぞーって自慢したかっただけじゃない?」
「私もそう思うわ、ハリー。単なる親馬鹿よ」
魔法界の英雄とグリフィンドールの才媛の言葉にそうかしらと顔を歪めた。
「って奴が来たから聞いてみれば?」
ロンが指した先には彼らの天敵で私の弟がいた。
「姉上、馬鹿がうつります」
すっとエスコートする様は父親によく似ている。
この可愛らしい弟は今も父親を尊敬してる。
「ドラコはどう思う?」
昔はあねうえすごーいと言っていた記憶がある。
あの発表後から弟が父親にまとわりつくようになったのだったか?
「・・・それは、僕には・・・・」
父親の意図を尋ねると迷ったように視線を泳がせやがてぽつりと呟いた。
「父上は姉上に殊の外優しいですから」
たまには手紙を書いて差し上げてくださいという弟が可愛らしくて遠い昔に負った傷は忘れてあげることにした。
でも自分の父親が単なる親馬鹿とは考えたくない辺り自分も似た者なのかもしれない。