そのカードはいつも執務机の右上段の引き出しにそっと仕舞われている。
「いつもお仕事ごくろうさまです」
その拙い文字を指でなぞる。
愛しくて堪らないという風に。
たった一枚のカードだけでもこんなにも幸せを感じてしまう自分に思わず苦笑した。
その日は調度、授業もなく休みだったので愛する妻と娘のいる家に帰ったのだった。
「パパっ!お帰りなさいっ!!」
腕の中に飛び込んできた小さく愛しい存在をぎゅっと抱きしめる。
「ただいま、。ママは何処だね?」
ちゅっと頬にくすぐったいキスを受けて上機嫌のはにっこりと可愛らしく笑った。
「ママはキッチン!!」
父親の手を引いて歩く娘に連れられてキッチンへ行けばいい香りがする。
「今日のチキンスープの出来は最高だな」
「ふふ、今日は特別な日だもの」
「うん、特別だもん!」
特別という言葉に思い返すが何も浮かばない。
自分の手帳には結婚記念日を初めクリスマスから娘の誕生日までしっかり書き入れてあるはずだがと思い返すが浮かばない。
「・・・我輩が忘れているだけなのか?」
少し困った表情で妻を見ればくすくすと笑われてしまった。
「、パパら教えてあげなさい」
「今日はねー、パパにごくろうさまって言う日だよ?」
わかる?と首を傾げていう娘の言葉にようやく一つ思い至る。
「父の日、か」
「正解!」
「パパっ!せいかーい!!」
妻と娘の言葉にわからなかったのも仕方ないと思う。
こういうものは祝われる者の方は忘れるものだ、大抵は。
「これが作ったの」
とてとてと居間の方へと走ったが持ってきたのは真っ白の便箋。
表には『大好きなパパへ』、とある。
それだけで家宝にすべきかなどと考える辺り親馬鹿も末期だろうか。
「の初めてのラブレターだよー」
「娘の初めてのラブレターがパパなんてセブルスってば幸せ者ね」
開けて開けてとせがむにわかったと返して椅子に腰掛けて封を丁寧に開く。
目を通してからずっと止めていた息を吐いた。
どうも自分は緊張していたらしい。
「、ありがとう」
これは我輩の宝物だと頭を撫でてやる。
手紙には拙い文字で仕事への労わりと身体を壊さないように心配しているという言葉と愛が詰まっていた。
「パパ、これからもお仕事頑張ってね」
大好きと囁かれてああ、と呟く。
そしてその日は父の日ということでセブルスのために色々二人で用意したという魔法グッズを持ち出されて遊ばれることになるのだが。
愛する妻と娘にはかなわないなと大人しく遊ばれる珍しいスネイプ教授の姿があったのだった。