冬の寒さが和らぎかけた春のある日。

休暇中のスネイプは運悪く風邪を引いて寝込むことになった。

妻であるミセス・スネイプは自分が暖めているベッドより研究中の大鍋を取った結果よと言いながらも甲斐甲斐しく世話をして。

愛娘のには絶対にパパに近づいていけないわよと注意した。

「パパにかかるくらい根性のある風邪なんだから」と。

こくりと頷きつつも視線は扉から離れない。

そんな娘に苦笑しながら今のうちに洗濯でもしようかしらとミセス・スネイプは離れていった。

















スネイプは熱を計っていた体温計を取り出して値を見る。

「・・・・・・・だいぶ下がったな」

熱で頭が痛むが喉の痛みは治まっている。

サイドテーブルにはミネラルウォーターとレモネード。

「喉が痛いときはこれの方が飲みやすいでしょ?」

そう笑う妻に甘いレモネードを飲まされそうになった。

気持ちは嬉しいが手をつける気は全くなくてミネラルウォーターへと手を伸ばす。

スネイプが薬とともに水を喉に流し込んでいると扉が静かに開いた。

「パパ、だいじょーぶ?」

心細そうな声がして扉の影から不安そうな瞳がスネイプを見つめていた。

「大丈夫だがそこから入ったら風邪がうつるから離れていなさい」

そう告げればこくりと頷いてトコトコと歩き去った。

娘の聞き分けのよさを嬉しく思いながら早く直して休暇なのだから家族旅行にでも行くかと考える。

カタン

音に視線をやれば扉の向こうに小さな椅子を持ってきた様子の

手にはお気に入りの本が数冊。

「本なら部屋で読みなさい」

「ちがうよ?パパによんであげるのー」

わたしも寝るときはママに読んでもらうもん!

その優しさに流石、我輩の娘だとなんとも親馬鹿なことを思ったりして。

本のレパートリーが『毒女アニシナ』『ほんとにあった怖い話』『魔法界妖怪全集』だったとしても気にならない。

娘の愛読書を知るのも親の務め。

「ねるーねーるこーどーもー・・・・・・墓場は何者かにあらされていた」

冒頭からして縁起が悪い。

「・・・・、(パパは)できるならもうちょっと優しいのがいいんだが」

「えー!毒女すきなのにー」

仕方ないなあといもむしの話だのジープの話だのお気に入りで覚えている様子に流石、我輩の娘(以下同文)

「・・・・おうじさまとおひめさまは幸せにくらしました」

おしまい!と本をぱたんと閉じたはほうっと溜息を吐いた。

「どうかしたか?」

いつもと違う様子に些か心配になる。

「ママがね、おひめさまは必ずおうじさまと会うんだっていうの」

「それが?」

「ママのおうじさまはパパ?」

娘から信頼の眼差しで見つめられて王子という柄じゃないという言葉は喉の奥にしまいこまれた。

「パパのお姫様はママとなのは間違いないぞ」

のおうじさまはパパじゃないよー」

娘の言葉にざっくりと切られてしまった。

「パパはママのおうじさまだもん」

のおうじさまはどこにいるんだろーねとキラキラした眼差しにそうだなと微笑みつつ。

『簡単には許してやらんぞ』

内心でスネイプがまだいぬ娘の恋人に駄目だしを出したのであった。

よく晴れた春のある日の出来事である。