ふんわりと甘い匂い

漂う部屋で母と娘は顔を見合わせて微笑んだ



















「なぁ、スネイプの機嫌悪くないか?」

気付いたもの多数。

その理由は魔法薬学教授の不快度指数を表す眉間の皺だ。

深い。

かつてないほど深く刻まれたそれは彼の機嫌の悪さを如実に表している。

「触らぬ神に祟りなしっていうらしいしな」

某東洋の島国の諺を使って彼らは朝食を掻き込むことに専念したのだった。













「何故我輩が・・・・・」

ぶつぶつと文句を言いつつも仕事をこなすスネイプの後ろ姿を生徒達は息さえ止めるような感じで見ていた。

彼が機嫌が悪いのはもう十分に実証済みだ。

なぜならいつもは難癖つけて減点はグリフィンドールだけなのに今日は自寮の失敗にも目を掛けることなく大量減点をしている。

「クソっ・・・・校長も何故今日にかぎって・・・」

ぶつぶつと授業を無視して鍋をかき混ぜ続ける背中を彼らもまた黙って嵐が通り過ぎるのを耐えたのだった。










一日の終わり。

夕食時にはスネイプの機嫌の悪さは最高潮に達していた。

足はカタカタ揺らして落ち着きはなく指先も机の端をコツコツと叩いている。

「可哀想なのは隣の先生だよな」

「あれじゃあ美味しいデザート所かスープだって入らないぜ」

そんな会話があちこちでされていた時だった。

「パパっ!!」

大きくて可愛らしい舌っ足らずな声がした。

とても幼い者の声だと気付いたのは兄弟のいる生徒達。

パパって誰だ?と疑問に思ったもの多数。

多くの視線を一身に受けたのは扉から飛び込んできた小さな侵入者だった。

「パパ!ここにいたー!!」

嬉しそうに笑った表情は花が綻んだようだった。

思わず誰もがにこっと笑い返したくなる純粋な笑顔。

パパって???

そんな疑問は直に解けた。

とてとてと小さい足が向かった先には。

・・・・・・・・・・・・・スネイプがいた。

「ぱぱっ!ハッピーバレンタインっ!!」

ぽすり、とスネイプの腕の中に飛び込んでいった少女。

その瞬間手に持ったフォークやスプーンを取り落とす者多数、椅子から落ちるもの、頬を抓って現実かどうか確かめるものなどの姿があった。

、一人で来たのか?」

いつもと違う声色にカクンと顎が外れた者も出た。

「ううんっ、ママといっしょ。パパのためにねぇつくったのがあるの」

えへへとスネイプの手を取って引っ張る姿は魔王を正しい道へと誘う天使のように見えた、と語る者多数。

「そうか。校長、我輩は数日休暇を取らせて頂きます」

では、とスタスタ歩き去る後ろ姿をぽかんと見送った生徒達を余所に校長だけは髭を撫でながら満足そうに笑っていた。


















「全く、バレンタインだというのに帰れないと思ったらそういう理由か」

ホグワーツの地下室で待っていた妻と娘とスネイプは休暇を無理矢理取ったこともあり自宅へと帰っていた。

「ええ、校長先生には貴方を驚かすために少し引きとめて貰っていたのよ」

驚いた?と笑う姿は生徒の頃と変わらないなとスネイプは口の端で笑った。

「ああ、祝って貰えないかとひやひやした」

キスを強請れば妻の唇が降ってくる。

「で、は?」

「パパ?これね、が作ったのー」

差し出されたお皿の上には綺麗に切られたチョコケーキ。

「貴方のために甘さ控えめよ」

こっそり耳打ちされた言葉に笑う。

どんなに甘くても妻や娘が自分のために作ってくれたものなら食べて見せる。

「凄いな、。我輩は幸せだ」

ありがとうと皿を受け取りテーブルへとのせる。

抱き寄せてその小さな身体を抱きしめた。

「ありがとう、

「ねえパパ?はやく食べてみて?」

父親の感動も知らない様子の娘に苦笑しつつ添えられた銀のフォークで切り口へと運ぶ。

食べるのが勿体無いと思うのは親馬鹿のせいだろうか。

「美味い」

「ほんと!?」

瞳を輝かして喜ぶ娘の頭をそっと撫でる。

「嘘をいう必要はないからな」

笑えばよかったと大喜びする姿が愛しい。

「じゃあ、お嫁さんになれるかなあ?」

「なっ・・!?」

絶句したスネイプがその後娘と妻に娘の男友達についてチェックしたのは言うまでもない。

ちなみに妻と娘が用意したリーマス・J・ルーピンへのチョコレイトはスネイプ自身によって処分され(食べ)たのは言うまでもない。