家が破産した。
「今日から住所不明・・・かあ」
ハアと溜息が漏れる。
それもそのはずこれで五回目の破産だ。
運良くというか三年分の学費は払ってる。
・・・一括で。
なので当面の目標は生活費だ。
「・・・社長さん所に行こうかな」
向かった先に何が待ち受けてるなんてまだ何も知らなかった。
「また、したのか」
「はい」
呆れたとばかりに笑われてへらっと笑う。
目の前で笑っている人は父親の知人で多くのアイドルが所属する「ピーコック」の社長さんだ。
「これで五回目か。まあ直ぐに元に戻るだろうけどそれまで・・・ね」
「はい。一年位あればあの人の事ですから騙された分は取り戻すと思うんですけど。無理でしょうか?」
差し出した履歴書を眺めつつ社長はニヤリと笑った。
「中々だな。いいだろう、空いてる奴がいるからマネージャーになれ」
「ありがとうございます」
ぺこりと頭を下げる。
くしゃりと撫でられて服を渡される。
「此処は秘密主義だからな。性別は隠して貰う。後二十分位で来るだろうから用意しとけ」
「はい!」
「奈良崎譲は知ってるな。こっちがお前のマネージャーだ」
「・・・です」
頭を下げるとふいっと顔を反らされる。
無視・・・された?
「自分は藤丸くんがいいと言っています」
ん?
藤丸・・・???
「振られているのだから良い返事が貰えるまで君にしとくことだな」
「・・・よろしく」
くん、とぐっと詰まったような表情をした後、奈良崎さんは深々と頭を下げてくれた。
「こちらこそよろしくお願いしますっ!!」
そして社長からの指示で放浪生活していたような奈良崎さんはマンションへと腰を落ち着けることになった。
「すいません。私のせいで」
「いや、別に構わない」
自宅が差し押さえられてしまったために制服やら必需品くらいしかない私のためにと社長が用意してくれた部屋だ。
マネージャー特典という奴らしく生活費はほぼ経費で済む。
奈良崎さんの食事とか頼まれてしまったが。
「今日のご飯は何が良いですか?」
「肉」
・・・社長がなんで私を付けたか良くわかった気がした。
トントントン
リズム良く食材を切っていると後ろから殺気。
ひょいっ
シュッ
木刀が横に振り下ろされたし。
「えと、何のつもりでしょう?」
「思ったよりやるな・・・」
答えになってない。
しかもこっちは包丁を持っていて危ない。
シュッシュッシュッ
突き出される木刀を交わしながら隙を伺う。
今だ!!
懐に飛び込んだ。
ボスッ
「・・・っ!!」
「はい、今日はこれでおしまいです。包丁持っているときは止めてくださいね」
顎下に包丁の柄を突きつけられて息を呑んだ奈良崎ににこりと笑う。
「・・・君とは上手くやれそうだ」
「ありがとうございます」
物凄く嬉しそうな奈良崎がその後自分のマネージャーが女の子だったという事実に気付くのはもう少し後。