「貴方は誰よりも誇り高い人よ」
聡く美しく誰よりも誇り高い女はルシウスにそう言った。
初めて“出会った”のはいつだったか。
あれは多分ホグワーツであった三校合同新年ダンスパーティーだったろうか。
パートナーは適当に見繕ったスリザリンの上流社会に属する家の娘で見た目も悪くはなかった。
ルシウスといるのが誇らしいのか上機嫌な様が鼻に付く。
ざわっ
ざわめきに振り向くとそこには美女がいた。
美しく誰よりも誇り高い女。
パートナーはエスコートしきれないのか、それとも振られたかでいないようだった。
ちょっとマルフォイ先輩っ
スリザリンの少女の声など無視して謎の美女の前に立ち手を差し出す。
「私と踊りませんか」
ざわざわと騒めく広間。
「断れば無用な諍いが起こりますよ」
その言葉に渋々と言った様子で手が重なる。
一歩踏み出しステップの軽さに驚く。
「鳥の羽より軽いな」
「貴方も足を踏まない礼儀は素敵だわ」
ステップの軽さに驚いて気がつかなかったが足に怪我をした様子にそのまま庭へとむかった。
医務室は閉められていることを知っていたのでハンカチに水を浸し手渡す。
「ありがとう」
そっと靴をぬいでハンカチを添えた足は僅かだが赤い。
「踏まれたのか」
問いに苦笑しながら返ってきた答え。
「私でなければ足が三倍になるほど踏まれてるわよ」
ありがとう、ルシウス・マルフォイ
にっこりと微笑まれて名前を何故と思う。
キラリと輝く瞳が見覚えがあるように思えた。
「まさか…」
名前を口にしようとしたら塞がれた
人差し指の柔らかさと細さに女とはこんな生きものだったかと問う。
「名前はいらない。私は今夜だけ謎の女。寮も出身校も純血かどうかさえわからない」
何が言いたいのか真意が読めず黙る。
「貴方は誰よりも誇り高い人よ」
貴方と一度だけ一緒にいたかったの
そう笑ったのは誰よりもルシウスを理解した女。
相手をするにはマルフォイの名に恥じない程度だということが必要でスリザリンの純血主義でさらに選択肢は狭められる。
「塞ぐなら口唇にしろ」
手首を握り指を退かすと染められた口唇にキスをした。
聡く美しく誰よりも誇り高い女
こんな奴だったのかと思うと同時にルシウスを知っている様子に頭の良さを感じ手に入れたいと思った。
酸素を求めて開かれる女の口唇に舌を滑り込ませ奪う。
「・・・・はぁ」
吐息が耳を擽る。
不快でない何かを知りたくて瞳を覗く。
覗いて引き返せなくなっても。
抵抗するように伏せられた睫毛の繊細さに心が震えた。
うっすらと涙の膜が張って潤んだ瞳は染められた頬と相まってルシウスの瞳を見張らせる程に美しい。
「今まで気が付かなかったとはな」
くっと笑みを刷いた口元を項に寄せた。
ひどく、ひどく残念だった。
「お前が・・・」
囁かれた言葉に女は諦めたような寂しげな顔をして仕方ないわと囁いた。
パーティーが終わりまた日常が戻ってきた。
次の授業へ向かうルシウスの横を一人の少女が通り過ぎた。
三つ編みに束ねられた髪と眼鏡のレンズに隠された瞳。
「・・・・っ」
呼び止めることも振り向くこともせずただ唇を強く噛む。
あの日は夢だと言い聞かせて。
「・・・・・・・お前がマグルでさえなかったら・・・・」
あの日の零れた嘆きは彼女しか知らないルシウスの嘆きだった。