「ねえ、せぶるしゅ?」
小さい手のひらに幸せの全てを掴ませてやりたいと思う。
子供特有の高い体温はスネイプの低い体温と混じって溶ける。
「どうした?」
覗き込めばそこには忘れかけていた幸せの色が見えた。
幼子を拾って二年がたった。
タ〇ゴクラブ、ひよこくらぶ、こっこくらぶならひよちゃんレベル。
こっこは生憎なれそうにもないが。
医師の話では生後間もないという話だったので拾った時が誕生日とした。
名前は悩んだ挙句にとある島国の一般的な名をつけた。
アジアの血が混じっているなと言われた幼子。
肌の蒼痣を見た瞬間に虐待かと勘違いして噛み締めた血の味が思い出せた。
無垢な命は闇に染まっていた自分にさえ無垢で。
小さな手のひらへそっと指を差し出せばきゅっと握る反応につい心を揺り動かされる。
「、今日は出かけようか」
小さく囁いているだけなのにニコニコと笑う。
「セブルシュはせんせーなの」
は自慢げに言って店主を戸惑わせた。
スネイプが子供を連れてきたのは初めてだしこんな子供が何故?と贔屓の客であるからこそ似つかわしくないと知っている店主の戸惑いにスネイプはを抱き上げた。
「教師とは何をするものか知っているかね」
幼い子供に対するには難しい質問。
「しらない」
首をふると細い長い髪がさらさらと肩を流れる。
「生徒を守り導くものだ」
「も?」
理解しているのかいないのかわからないが幼子は可愛らしく首を傾げて問う。
「ああ、も守ると約束しよう」
店主はその様子をみて呆気に取られていたが暫くして我に返ると在庫の薬草リストを手渡した。
薬草店を出るとスネイプは左手にを抱いて右手は開けたまま道を進んだ。
「おりるー」
じたばたと動いたを降ろすと小さな足が向かった先はカラフルな店。
子供は色使いがはっきりしたものを好みます。
そう書いていた雑誌の一文が頭に浮かんだ。
「セブルシュ、あれなあに?」
指の先には黄色のアヒル。
お風呂セットとして使えますとの文字に目を留めた。
「アヒルだ。欲しいのか?」
こくんと頷いたの手を取り店に入る。
「いらっしゃいませー」
明るい店員の声に迎え入れられはにこにこと上機嫌で並べられているアヒルの中から二番目に小さいものを選び出した。
「それがいいのか?」
「うん、これね、のおともだちよ」
ぎゅっと両腕に抱える様に愛らしいものだなと笑う。
店員に会計を頼んでそのまま出ようとする。
「お嬢ちゃん、パパに買ってもらってよかったねー」
その声にきょとんとしたは帰り道に聞いてきた。
「せぶるしゅ、パパってなぁに?」
「・・・・・の父親だ」
父親とはなんだろうと疑問符が見えるような表情を浮べた後はもう一度聞いてきた。
「せぶるしゅがパパ?」
「違うな」
ますますなんだろうという表情にわかりやすく説明する。
「には父親も母親もいない。パパもママもいないんだ」
泣くだろうかと身体を硬くして反応を見た。
「えー、あ、でもにはセブルシュもガーちゃんもいるよー?」
アヒルの名前はガーちゃんになったらしい。
「そうだな、我輩がいる」
そっと頭を撫でてやるとくすぐったそうに笑う。
いつか父親も母親もいないことで苦しむ事があったとしても。
「の側に我輩がいよう」
父親のように母親のようになんてできるかどうかさえわからないのだけれど。
「の幸せを願っている」
きゅっと握り締めた子供特有の体温。
小さな手のひらに掴めるだけの幸せを。
「セブルシュ、お家にかえろーよぉ」
帰宅したスネイプ家では風呂場から楽しげな笑い声が響いていた。
恋愛家族のヒロイン二歳の頃の出来事。
恋愛家族は試験が終了後連載します。
多分不定期連載。
スネイプ先生が優しくってこの話を書くのは大好きです。