このことはきっと必要なことだったのだろう。

だけど許せることと許せないことがある。

そして私にとっては許せないこと、だった。

だから私に出来ることをしに来たのだ。



















彼と出会ったのも仙洞省だった。

「霄様!」

仙洞省に向かっているだろう後姿を、見つけた。

声を掛ければ振り向いた彼に言った。

「少し若くなってください!」

「・・・いきなりなんじゃ」

「私は怒ってるんです!老骨折られたくなかったら若くなってろって言ってんですよっ!!」

「は・・・待てっ待ってくれぃ」

ボコっといい音がした。

よろりとふら付くのは若い霄様だ。

「・・・酷いではないか、

「酷いのはどっちですか!大体秀麗と静蘭さんを巻き込んで劉輝を、王を試すから罰が当たったんです!」

ていうか私が当てましたけどと鳳珠様に合気道習っていてよかったと言えば文句を言われた。

「全く、若い頃からの友人を失ったんだぞ!?もっと労わってくれても良かろう!!」

「では言いますが茶家の陰謀なんて茶太保が自分で尻拭いする前に潰しておくべきだったんです。

霄様の我侭でしっかり茶太保は自分の罪だけで亡くなったんですから」

本望ですよと言う。

大好きな茶鴛洵様を思い出す。

優しくて強い人。

霄様に対しては憧れと憎しみが表裏一体であった人。

英姫様の大事な方。

「英姫様にもしっかりと言い付けさせて頂きますから」

薔薇姫様からの伝言も持ってますと秀麗の母上の言葉を告げればヒクヒクと顔を引きつらせた。

「そ・・それだけはやめてくれっ!あの女に鴛洵の最後がばれたら私は本当に殺されてしまう」

「邵可様にも意地悪をしておいででしたね。可哀想だと思わないんですかっ!!」

「私の方が可哀想だと思って欲しいぞ」

おろおろと今にも泣きそうな霄様に仕方ないかと溜息を吐いた。

邵可様ですら怒りを納めたのだ。

当事者でない自分がでしゃばるのもここら辺にしておこう。

「では約束の金五百両と慰謝料、治療費上乗せで秀麗達を無事に帰してくださいね」

「わかった!それで命が買えるなら安いものだ」

二つ返事にもっと吹っかければよかったと思わないでもないが霄様は霄様なりに王を国を思っての行動だったのは理解できたから。

「でも親友に酷いことをした霄様なんて嫌いです」

「き・・・きらっ・・・・」

が気付かず放った言葉は止めとなって霄の心を打ち抜いた。

崩れ落ちる霄大師はその後、宋太博に見つかるまで真っ白に燃え尽きていたという。





























「秀麗帰っちゃいましたね」

「ぼんくら王の元に嫁にやるには勿体無い娘だからな!」

の言葉に嬉々として反応している黎深を絳攸は複雑な視線を向けている。

「勿論、もだぞ!」

「あー・・・そんなこともありましたね」

「なっ・・・なんの話ですか!?」

吏部尚書の部屋に聞き耳を立てる強いもの知らずなどいないので普通の声で話していたのだが黎深の言葉にが相槌を打てば絳攸が叫んだ。

「五月蝿い。全く鼓膜が破けたらどうしてくれる」

「何、どうしたの?絳攸」

それぞれな反応にどもりつつ答えた。

「だ、だだだからっ!がっ!!」

「ああ、なんか私の初恋って劉輝・・・様だったみたい」

秀麗っていう可愛い奥さんがいたから直ぐ失恋したけどと笑う姿は普段と変わらない。

「大体ああいう馬鹿王の何処がいいんだ?私や、まだコレや鳳珠の方がましだろう」

ピシリと固まった絳攸の石化が戻った。

「義父様が一番なのは変わりませんよ?うーん・・・あったかくて優しいから?一緒に寝ちゃいましたし」

あ、兄様って呼んでいるんですーという照れながらの声は二人には届いてなかった。

「・・・やはり殺っておくか」

「主上に渡す大量の書類をうっかり渡し損ねてました」

その話はその日のうちに義父、鳳珠の元にも伝わり仮面を可愛い娘に手を出しかけた(としか思えない)馬鹿王の前で外そうとする上司であり友人を

景侍郎が必死に部屋に閉じ込めてに助けを求めたのだった。

ちなみに霄太師は折角の王を私怨で殺すわけにも行かず秀麗がらみの時にちまちまと嫌がらせをして憂さ晴らしをしていた事は

彼以外では本当にごく一部の者しかしらないことである。


























「さて帰りますか」

絳攸も主上、劉輝付きとなり吏部から貸し出される形となった。

鳳珠様にも今日で終わりだと告げていた。

吏部の方々はなんでか泣いてこのまま居て欲しいと言われた。

嬉しかったけれどそれは、できない。

このまま居たらきっと夢を見るのが難しくなる。

まだ私は管吏になる夢を捨ててはいない。

私ができることはまだ此処にはないのだ。

悲しいことだけどいつか戻ってきてみせる。

「お世話になりました」

礼をして歩きなれた回廊を歩く。

此処を通るのは最後かもしれないなんて思えば折角の決意がくらりと揺れる。

もっと強くならなければ。

、一緒に帰ろうか」

「ほ、鳳珠様っ!?」

軒に付けば鳳珠様が待っていてくださった。

聞けば仕事が早く終わったのだという。

きっといつもの倍くらい頑張ってくれたのだろう。

嬉しくて涙が出そうになる。

ああ、私は幸せだ。

「はい、鳳珠義父様!」

名残り惜しい場所だけれど帰るべき場所はちゃんと在る幸せを噛み締めながら明日からも頑張ろうとは眩しいほどの笑顔を浮かべたのだった。