見失ったものを見つけるのは難しいこと

けれど疑うことすら出来ないのは真っ直ぐに進みたい道があるから

譲れないもののために
















霄の元で勉強を始めて数日。

まだ義父、鳳珠の元へとは帰れてなかった。

会えばきっと口にしてしまうだろう。

『何故』と。

『女人の試験参加を許可してください』と。

彼の判断は戸部の長としてのもので自分がとやかく言えるわけはない。

そして言ったら公私混同に他ならない。

だからは此処にいる。

今の自分に出来ることは『今は』勉強することだけだ。

はそうやって黙々と筆を進めているがその事、公私を分けるという事が官吏の資格の欠片であるということを彼女は気付いてなかった。


















「用があるならどうぞ」

ちらちらと扉の影にいる人に声を掛ければギクリと動きを止めた後、黎深は扉から姿を現した。

平静を装ってはいるが動揺しているのがわかった。

珍しいな、どうしたのだろうかと首を傾げた。

秀麗に叔父様なんてキラーイと言われたのだろうかと思い、考え直す。

そんな日が来たら多分この人打ちひしがれて立てないだろうとかちょっと酷い事を考えてしまってた。

「・・・、怒っているのか?」

「いいえ。私は今、仕事中ですから霄太師へのご伝言くらいしか受け付けてませんが」

怒ってませんよ。

にこりと笑って見せればいつもなら笑い返してくれる人は扇で顔を隠した。

不機嫌になった証だ。

「怒ればいいのに何でそんなに良い子をするのだ?も秀麗も私に甘えてくれればいいのに」

ぶつぶつと文句を告げる姿に思わず笑ってしまった。

「お優しいですね。でも私もちゃんと一人で立てる努力はしないと駄目ですから。鳳珠様のご意見は最もです」

でも負けませんと言いながら本を閉じた。

「お茶をご一緒して戴けませんか?少し早いですが休憩をするので。お忙しくなければ、ですが」

「全く大丈夫だ」

絳攸が聞いたらちっとも大丈夫じゃありませんよと言うんだろうなと苦笑しながらはありがとうございます、と礼を言った。
























「ちっ、私・・・わしが一緒に休憩するつもりだったのに」

ぶつぶつと草陰で文句を言って偽者の壷を抱きしめて隠れている霄太師の姿があったことは彼を追いかけている官吏たちも知らないこと。


























「あの糞爺がに勉強を教えるのは気に入らないが・・・」

その後の言葉は飲み込んだ。

どうもの前では素直になり過ぎてしまうなと黎深が思っていることなどしらずは笑った。

「そうですか?とても勉強になります。それに私、反省してるんです」

その顔は反省していると言っても立ち止まって悩んでいる表情では、ない。

「・・・気付いたのか」

ぽつりと黎深の言葉に自分の中で言葉を捜していたは気付かない。

「私、甘えてました。私の夢だからお世話になっている分を返しながら進もうなんて。鳳珠様はいつも気にするなと言ってくれてたのに」

気にするなとは優しくそして厳しい言葉だったのだと今は知る。

「鳳珠様に聞いたわけじゃないですが・・・きっとそんな暇があれば夢に向かって勉強しろとおっしゃって下さっていたんですね」

黎深は扇で隠したままの口元をゆっくりと吊り上げた。

やはりこの娘は聡いと友人の選眼に吏部の長としても評価する。

きっとは官吏になるだろう。

秀麗と並び史上初めての女人官吏として。

「私にはまだ何かを返せるそんな余裕なんて無かったのに背伸びして。こんな機会が来るなんて思わなかった。だから今は勉強します」

もっともっと勉強して夢を掴みたいと前向きに進み出した少女に眩しさを感じて黎深は目を細めた。


























「お前の養い子は官吏になる資格はもう十分にあると私は判断したぞ」

秀麗の存在と女人受験参加の理由を黎深が吏部の長としての言葉を鳳珠に告げたのは数日後の黄家に沢山の『お客人』で賑わう夏の夜の事。