その願いを叶えてやりたいと思う反面、止めておけと手の中に大事に仕舞い込みたくもなる。
「国試の、女人受験を―――これを導入したい」
却下するしかない。
立ち上がって無言で退席する。
無礼という以前の行動だが意を汲めぬことはないだろう。
「全く・・・早すぎる」
国の状況を省みてもその意見はやはり早すぎたのだ。
「お前が反対しなかったのはなぜだ?」
鳳珠は十年掛けて計画していかねばならないと思っていた。
の望みは知っていてもやはり頷くには躊躇いがあった。
それは何より―――のために。
「ん?それはね、と同じように小さい頃から官吏になりたいと思っていて、私の国一番すばらしい兄上がそれならと何年も前からじっくりと国試の勉強を教え込み、
今はまあそこそこまともに育った私の養い子が何日かおきに出かけていって、ご飯食べがてら補足分を叩き込んでる女人の存在を知っているからだよ」
自分の顔色が変わるのがわかった。
「・・・国試合格可能圏か?」
「それも上位で」
一拍考えた後鳳珠の双眸は伏せられた。
「そういう事なら話は別だ」
後は自分ととの個人的な事。
「常識を根底から覆せるような衝撃と効果が得られるようであれば―――」
最後の言葉を口に仕掛けて止める。
「何をニヤついている。気味の悪い」
「いや、鳳珠。嫌われたくないからと言って止めたりしたら嫌われるよと忠告しとこうと思ったのだけど」
君の娘は君が心配するほど弱くないよと言われてむっとする。
「知っている。・・・だからこそ心配なんだ」
きちんと話すし意見が食い違っても仕方ないことだからなと言えば黎深は振られたらきちんとは貰ってあげるから安心しろなどと言ってきた。
鳳珠は美しい美しすぎる容貌を怒気に染めて黎深を叩き出したのだった。
大事な存在だった。
多分が自分の事をそう思ってくれていると同等かそれ以上に大切だと思っている。
自らの素顔を見て幼いながらも笑いかけて来た不思議な娘。
単に面白いと思ったのだ。
顔を見れば動かなくなったり今までよく動いていた口が止まるのは儘あったこと。
不快に思わなくも無かったが別段其処までも気にしないようにしていた。
けれど日々好意を両手一杯に差し出されて全身で愛をくれる小さな少女は鳳珠にとって掛け替えの無い養女(むすめ)となった。
だからこそ簡単に頷けはしなかった。
女人の国試導入には。
多分受ければは合格できると思う。
それは親の目ではなく冷静な官吏としての目で見ても。
ただには足りないものがいくつかあった。
そしてその足りない部分を補足するには次回の女人試験では間に合わない、そう思った。
それは覚悟。
全てを掛けてたった一度の機会を掴む覚悟。
そして鳳珠にもなかったのだ。
その、覚悟が。
が女人として初めて官吏となったとしてもいつか挑戦して来る続く未来の女人試験者達のために奔り続けなければならない。
官吏で在り続けなくては、ならない。
出世を。
そして獣道を歩くことを求められる。
その覚悟を今のには無理だと思った。
自分にも難しいと思ったのだ。
きっと倒れたら助け起こそうと手を差し伸べてしまうと。
それではの道は閉ざされてしまうのに。
そして後世に続く女人のための道も。
だから頷くことは出来なかった。
「、お前と秀麗・・・二人しか合格しないと覚悟はできているか」
「はい。私と秀麗はその為に今迄頑張ってたんですから」
親としての鳳珠の心をわかっているのかあっさりとは答えた。
「鳳珠様、私・・・幸せです」
『鳳珠様に出会えて拾って貰えた日の次に幸せで。幸せすぎて忘れられません』
何があってもきっと。
恥ずかしそうに告げる娘に鳳珠は破顔した。
それはこちらの言う台詞だと鳳珠が告げたかどうかは二人しか知らないこと。
その後、二人の少女が国試受験資格を得たことはあっという間に国中に広まった。
一人は紅秀麗。
もう一人は黄。
第一期女人参加の受験生として受け入れられ見事合格した彼女達が巻き起こす奇跡とも思える数々の出来事は
後に彩雲国の歴史に燦然と輝く軌跡として残ることになる。