「なあ、。あれ食わせてくれよ!!」

燕青が続けた聞きなれない言葉に皆がはて、と首を傾げたのだった。




















は実は密かに全商連と契約を結んでいる。

それは彼女しか知らない秘密の調味料を独占販売したいと言う全商連幹部に約束したのだ。

「卵とお酢と塩。あとは味を調えるために胡椒も入れて・・・」

出来たものはなんてことは無いマヨネーズだった。

しかも少しだけ緩い。

それを伝手を頼って作った蒸留機に掛ける。

暫くすると良い匂いがして程よい硬さとなった調味料が完成した。

こちらへ来る前、の住んでいた『家』では子供でも小学生ともなれば一人前として手伝いをする。

男の子も女の子も料理や掃除、年下の子供の世話に新聞配達などのアルバイトまで。

も少し早かったが忙しい時期などは色々と手伝っていた。

だから普段ならチューブ状のマヨネーズしか知らなかったはずなのだが調度切れた時に居合わせていたのだ。

言われた通り混ぜればマヨネーズに似た黄色の液体が出来てびっくりしたのを覚えている。

面白くてケチャップやソース、お醤油などの成分表など目を通していたのが役に立った。

漢字はまだ読めなかったけれど横でくすくす笑いながら読んでくれた人がいたのも遠い昔のこと。

「こっちに来たときは凄く不思議だったのよね」

何故、味付けが違うのか。

美味しいし素朴な味だがやはりたまには別のものが食べたくなる。

そんな中で何回か自分で作っていたのが役立つとは。

「それがまよねぇず・・・ですか」

黄色のぷよぷよした液体とも固体とも言えないものに静蘭は美しい眉を顰めた。

「うん、キャベツに和えて食べると美味しいよ。後はソースと」

ソースは簡単に作れないので作り置きを家から持ってきたのだ。

これは熟成期間がいるのでなかなか調整が大変だったりもするのだが。

「では作りますか」

包丁を見事に舞うように動かすに苦笑して静蘭は静かにその場を後にした。





















「全商連のお墨付きで極秘の調味料・・・って今流行っているやつかな?」

楸瑛の言葉に皆がぴくりと反応した。

「流行っているのか?俺は知らないぞ」

絳攸は全く知らなかったのか憮然としている。

「ちなみに何処で流行っているのですか?」

静蘭の言葉に楸瑛は流石だねというように笑った。

「上流貴族・・・いやそれも極めて一部だけかな。値がかなり高いようで希少価値らしいから」

その言葉に意外だという空気が漂う。

その秘密を知る少女は確かによく働いているがあまりお金に窮している風にも金銭を其処まで蓄えているようにも見えないのだから。

「あー、それには訳があってなー」

ぽりぽりと頬を掻いた燕青は仔細を話し出した。

「茶州って所は今は結構落ち着いたけど前はそりゃあ酷かったんだ」

今は鴛洵爺ちゃんが居ないから荒れてるけどという言葉は飲み込む。

言っても面白くない話題だからだ。

言って変わらないのであれば言わない方が良いこともあることを燕青は知っていた。

「で、何故が其処に関わるんだ?」

絳攸の言葉におやと燕青は静蘭を見た。

少しだけ不服そうな表情にああ、と納得する。

李侍郎も、なんてすげーなあ。

静蘭を落としている時点でも凄ぇのにと兄の立場な燕青は感心しつつ話し出す。

が一時期茶州で勉強していたのは知っている・・・わけねーか」

絳攸の顔色がさっと変わった。

他の皆も其処までは無いにしろ強張っている。

「確かに一時期勉強と見聞の為に旅に出ていた時期がある」

絳攸の言葉に頷く。

「多分それだぜ。は茶州に来て仕事を手伝いつつ勉強してたんだが・・・」

思い出すと笑いが込み上げてしまうのはあの時の皆の喜びようが凄かったからだ。

「早く言え」

物騒な気配にわかったわかったと答える。

秀麗は羨ましいと瞳を輝かせてその時の勉強内容も聞いてみようなんて呟いていて本当に勉強熱心だ。

「飯が不味かったんだ」

「「「「「「は!?」」」」」

にこにことお茶を飲んでいた邵可までが聞き返していた。

もちろんお茶は邵可が入れたものではない。

「だからー飯がすっげー不味かったんだって。いっつも作ってたオバちゃんが辞めてしまって新人が作っていたのもあったけどよ」

『ご飯が美味しくなければ仕事は捗りません!!』

そう言って新人料理人にビシビシと指導しながら働いていたを思い出すと口許が緩んでしまう。

「ま、まあそうかも知れないけどね」

それがどう繋がるんだいと代表したような楸瑛の言葉に燕青は頷いた。

「それがなー、ってば朝早くから山菜とか摘んできて飯の具を増やすわ、調味料を作って飯を美味くするわ」

大活躍だったんだぜー。

能天気な言葉に皆が脱力した。

茶州の官吏の為に勉強の合間に試行錯誤で完成させたケチャップやソースは今では全商連が独占販売するお陰で値が吊り上り

官吏の昼飯の一部と還元されている。

そしてそれだけではないのだ。

「でな、はその時塩の混ぜものに気付いたんだよ」

塩。

それは鉄や銅などの金属や米等の食料と共に国に必要なもの。

人は塩がなければ生きてはいけない。

「それまで塩の値が上がってなかったからあまり気付かなかったんだけどよ。『なにか違う』って言ってさ」

調べたら確かに白砂が混じっていた。

質の悪い塩も。

「ついでに塩使ってあくどい事しようとする奴見つけて調味料作って独占販売の契約して州府を助けて」

凄いだろ?という言葉にただ皆は呆然とするしかなかった。

そんな事がただの少女に出来るのだろうか。

秀麗は少しだけ羨ましそうな溜息を吐くと料理を手伝ってくると部屋を出て行った。

憧れと少しだけの嫉妬とそしてそういう友人が居ることの誇りを抱えて。

「で、今はその独占販売した金は孤児の為に使われてる」

州府も持ち直したからなと笑う燕青に静蘭は頭痛がした。

確かに凄いと思うしには官吏の才能があると思う。

けれど。

「勉強しに行ったのに料理をずっと作らせてたのか、この馬鹿!!」

冷ややかなこっそり邵可も加わった四対の目で見られてあちゃーと燕青が慌てている所に噂のと秀麗が入ってきた。

「今日はご馳走ですよーってどうしたんですか?」

首を傾げて見て来る少女にいや、と燕青以外の四人が答えた。

「冷めないうちに食べて勉強しましょうね」

にこにこと笑うと秀麗に四人はそっと笑う。

この少女達なら大丈夫だと。

そしてその夜、達が鍛えられている時、台所では。

「ほら、さっさと洗え。米搗きバッタ」

「ひでぇ〜なんで俺だけ!!」

後片付けを茶州州府代表として与えられた燕青の姿があったのは一部の者達しか知らないこと。