女人の国試参加決定。
それは世界に激震、とまで行かずともやはり揺らしはしたようだった。
それはそれは厳しい条件の下、本来の過程を飛ばして国試の受験資格を得た少女達はそれぞれの夢を胸に新たな一歩を歩き出した。
「ううん・・・やっぱり櫂瑜様に頼めば良かったなあ」
後見人となる者は、という条件により結局霄様に頼んだのだがやはり不味かったかなと反省した。
秀麗と同じで黎深様に後見を頼むべきだった。
これから風当たりがきっと女であるという事実からきつくなる。
その時にもし同じ立場にあったのなら紅家の同じ後見人を持つ紅家長姫と黄家養い子では私に色々来たはずだ。
けれど霄様の後見である事実と邵可様の人柄や能力にそぐわずあまり高くない地位から考えるとやはり少しだけ秀麗の方が分が悪い。
その点で言えば櫂瑜様は地位もあるが霄様と違って遠方にいらっしゃるから回りもちょっとくらいと思いそうだし風当たりは私に来たと思うのに。
別にお饅頭作るのが嫌なわけではないけどと手に持った包みを抱える。
中には『後見人に顔を見せに来ないか』というついでに書かれていた料理が食べたいという文字に対してのものだ。
お世話になったのは確かだしと用意して歩いていれば前方から奇妙な青年がやってきた。
何が可笑しいってあんなに往来を行き来していた人々がぱっくりと割れて道を譲ったからに他ならない。
その時ちょうど考え事をしていたはそれに気づかず青年と対峙する格好になっていた。
「む。なんと香ばしい匂い」
ぴょこんと頭に孔雀の羽がついてゆらゆら揺れている様にこの目の前の人は誰だろうと首を傾げた。
どこかで見た顔なんだけど・・・。
「娘、私は小腹が減っているのだが一曲天にも昇る曲を吹くからそれを食させて貰いたい」
男の人にしては綺麗な指の先は霄太師に持っていくはずのもの。
少し迷ったがお腹を減っている人を放っても置けずには笑った。
「別に笛を吹かなくても良いですよ。ここじゃなんですから向こうで座って食べますか」
指差した先には石の塀があり腰掛けるのに調度良い。
好きなだけどうぞと包みを開けて渡したら綺麗な挙措で食べている様子にやはり誰かを思い出す。
こんな印象的な人なら忘れないのだけどうーんと考え込んでいれば満足したのか綺麗に包みを元に戻して返してきた。
「無償とはやはり私の気がすまん。一曲聞かせて進ぜよう」
「あ、ありがとうございます」
礼を言ったの笑顔が響き渡った笛の音とともにぴしりと固まった。
ぴ〜ょろろろろろろ
なんだこれは。
鳶が鳴いているのだろうか。
癒し系というより激しく脱力系な怪音に周りではバタバタと人が倒れてる。
す、凄い。
耳は悪くないだが一音一音を辿っていくとなんとも音に酔いそうで気持ちよさそうに笛を吹いている青年を見つめる。
ん。
この人って。
「あのー・・・もしかして藍将軍のご親戚ですか?」
ぴよ
やけに可愛らしい音を立てて怪音は止まった。
「む、ここにも愚兄の被害者がいるとは」
笛を懐に直すとじいっとを青年は見つめてきた。
「私は藍龍蓮という」
「私は黄です。よろしくね、龍蓮君」
はいと手を差し出して握手をすれば変な顔をされた。
「・・・そなたは料理の才能がある」
「ありがとう」
褒めてくれてと笑えば握ったままの手をますますぎゅうっと握られた。
「それに私と共に笛を好み風流を解せる者のようだ」
「う、まあ笛は嗜む程度には吹くけど」
ますますぎぎゅーと握られて少々手が痛い。
「うむ、愚兄には勿体無い。よし愚兄その四の魔の手から救うべく、お前を私の番う片羽、つまり未来の伴侶としよう!」
「は?」
この時が往来で口説けるなんて流石藍将軍の弟さんと思ったということは後々語られる事である。