沢山の人が死んでいく。

私に出来ることは何?

日々やつれていく大事な人のために何が私にできるだろう。

























王都は墓場と日々化していた。

激しくなる後継者争い。

それは王都を直撃して市場の値は吊り上がるばかり。

食べ物は町には無くなりつつあった。

ある所にはあるらしいのだがそれは貴族の家のみで町の人々は皆飢えていて普段なら大したことのない病にすらあっさりと罹った。

ただ黙って鳳珠は見てなかった。

仕事の懸案を早めに終わらすと市場についての意見を議会に提出し独占による市場の吊り上げや戦乱による物資の流れが留まることを防ごうとしているらしい。

帰ってこない日も続き、黄州にある実家からは毎日のように帰って来いと催促の手紙が届いた。

は中庭で取れる果実を鳳珠の了解を得て町に持って行き配り、中庭に急遽作って採れた薬草を煎じては町医師に届けた。

使用人も古くから黄家に勤めているという者たち以外は逃げるように黄州へ逃れた。

ただ、と古参の使用人達だけはほっとけば一番に倒れそうな鳳珠の身を案じて残っていたのだった。

「今日は鳳珠様の好きな蒸し物を作りましょうか」

蒸し物なら天下一という自慢をする侍女長と一緒に蒸し料理を作っていく。

「お上手になりましたね」

腕が上がったと自分でも思うがそれは教えてくれる彼女のお陰もありそして美味しそうに食べてくれる義父の鳳珠さまのお陰だともは思っていた。

「でもまだ桃饅と薄皮饅頭は美味く作れないの」

薄い皮の饅頭はそこそこ出来るようになったがまだまだ料理人としては半人前だと思う。

「十一でここまで出来たら十分ですよ」

さあ、後は蒸すだけですという言葉にこくんと頷いて夕暮れの中、中庭へと足を運んだ。

「明日は大根を煮て出したらいいかな。後、予備の麦も出して粥も出来るかも・・・」

か?」

背中に掛かる声に振り向けばいつの間にか帰ってきた父の姿。

「鳳珠様!?お迎えもせずにすいませんでした」

ぼうっと考えていた自分に気づいて慌てて謝る。

「いや構わない。疲れているのではないか?」

そう言う彼の声の方が疲労の色が濃い。

「私より鳳珠様です。今日は鳳珠様のお好きな蒸し料理ですよ」

「・・・・・・ああ、そうだな」

何かを言いたそうで言えない様子の鳳珠に疑問を抱きつつも食事を取る部屋へと着いて行った。

「美味かった。また上手くなったな」

「ありがとうございます」

褒められることが頑張れることに繋がるなんて知らなかった。

彼に喜んで貰いたいという気持ちは少女を突き動かす原動力となる。

「・・・話があるのだが」

「はい」

辛そうな何処か決意したような表情に何があっても驚かない心構えをする。

死ねと言われても笑って死ねるようなそんな気持ちに。

「王都を離れる」

「は・・・・鳳珠様!?」

彼が再三に渡って黄州からの手紙を無視し続けたことを知っている身としては理由がわからない。

そして苦々しそうな表情の理由も。

「帰らねば黄州からの物資を止めるという話が出ている。今の王都には打撃が多すぎる」

「そんな・・・」

言葉が出なかった。

彼のしたいことは国を、民を守ること。

政治の流れを良くして潤滑良く物事を廻す事。

なのにそれを止めるのが彼の身内という苦い現実にも。

「仕方ない。私一人が王都にいても黄州から来る物資には適わないしな。そろそろ纏めて休みを貰ってもいい時期だ」

「・・・・・お屋敷にある全ての食べ物を町の皆さんに分けてもいいですか?」

苦々しさを飲み込んでプライドを捨てて彼が守ろうとしている町を民を自分も守りたかった。

彼と同じものを見たかった。

「ああ、明後日には皆で黄州に戻るからな」

「はい」

勉強をしようと思った。

官吏になって彼の夢の手伝いがしたいと思った。

彼が出来ないときは自分が手伝える力が欲しいと思った。

「鳳珠様、女の子は官吏にはなれないのですか?」

閉められた屋敷を旅立っていく一行を町の人々は頭を下げて見送ったのだった。