とても良い天気の日だった。

市は大勢の人で賑わっている。

そんな人込みの中楽しげな少女は露天を見定めるように見ながら歩いていてふと一軒の店の前で止まった。

「ねえ絳攸!これ、似合うと思わない?」

「そうか?」

差し出されたのは色鮮やかな髪結いの紐で丹念に凝らされた房が美しい。

不審気な表情に少女は似合わないかなあと首を傾げた。

「なんで黄尚書は・・・その、あのような仮面を被っているのだ?」

絳攸は以前から不思議に思っていたことを聞いた。

趣味ではあるまい。

もしそれが趣味なら少女の保護者として認めたくないと心の隅でこっそり思ったのも事実。

当初、邸宅にお邪魔することはあってもあまり会うことはないために知らなかったのだが知った時は驚きすぎて言葉が出なかったものだ。

養娘であるなら知っているだろうと思って尋ねたのだが。

「あ、あれねえ。絳攸は知らなかったのね・・・」

はどうしようかと迷っていたのだがこの際だしと真実を話すことにした。

親しい友人に嘘は吐けないし吐きたくない。

鳳珠様の私事であるがあの人はそんなことを気にするほど小さい人ではない。

とても美しいのに漢前すぎる性格だと彼の親しい黎深様から聞いていたし。

自分に向けてくれる優しさの深さは甘えすぎないようにと気を引き締めても包んでくれる暖かさに泣きたくなる。

それに追求をかわせばかわすほどにあの仮面の下を知りたくなってしまっては本末転倒だ。

いくら絳攸が無理に仮面を外そうとする人でないと知っていても話しておいたほうがいいかもしれない。

そう判断して口を開いた。

「あれはね、とある女性にお顔のことで結婚を断られてしまったの」

「そ・・・そうか」

だからあんな仮面をと絳攸は酷く聞いてはいけなかったと顔を青ざめている。

人の好い青年はよっぽどなんだろうなと髪は極上なのにと思いつつ髪を結う紐を見つめた。

「そうなの」

で相手が黎深の奥方になってしまった相手が百合姫だとか

その理由が自分より美しすぎる顔を持つ夫は持てないと言われたことは割愛した。

其処まで言ってはいけないだろうと思った少女の優しさからであるのだが。

なので二人の間には勘違いという深くて幅広い川が流れていた。

「ま・・まあその髪飾りなら黄尚書の髪には相応しいと思うぞ」

「そう!?じゃあこれにしよう!!鳳珠様って美しいから飾りも映えるのよね」

おじさーんと叫んでるを見つつ溜息を吐く絳攸。

デートを誘ったのに髪飾り一つ買えてなく。

買ったのは少女の義父への贈り物。

「まあ・・・楽しそうだから良しとするか」

晩生過ぎる彼にはまだまだ乗り越えなくてはいけない壁がありそうであることは彼はまだ知らないことである。