鬼が来る

鬼が来るよ

桜の向こうから

ほら

来るよ

鬼が

鬼が

鬼が

桜鬼が来る











桜が盛りを過ぎ始めた頃『それ』は現れるという。

「桜の下には死体が埋まっているらしいですよ?」

笑っている表情と口にした言葉の意味との差に戸惑う。

「ただの俗説なんですけど」

        笑う自分の半分もない幼い少女に虚仮にされたように感じて冷たく扱う。

「我輩は忙しい」

そう言って部屋から追い出した。

















暫く経ってスネイプはふと桜に関した出来事を思い出す。

丘の上の桜。

誰が植えたのかもいつから咲き誇っていたかもわからない桜。

その下でスネイプに告白した少女がいたことを。

薄紅色の蕾も薄桃色の花も過ぎた季節。

卒業したその少女が行方不明になったと聞いた時はただそうかと思ったのだった。

ただいつからか丘の上の桜には鬼が出るという噂が広まった。

数年前に消えた少女が好いていたからだろうかとふと思う。

嫌な予感がした。













鬼が来る

鬼が来るよ

鬼が

鬼が

鬼が

ほら・・・


















カツカツと足音が響く。

寮にも戻ってないのを確認したスネイプは恋人の少女の姿を求めて歩いていた。

嫌な予感はスネイプを脅迫するほど増幅している。

「我輩に予知能力はない」

気のせいだと思い込もうと呟くが昔から嫌な予感ほど良く当たるのも事実。

黒いローブを翻しスネイプは確信めいたモノを持って丘へと向かった。












姿現しが出来ないことがこれ程煩わしく思う日が来るとはと思いつつ丘へと上る。

きっとは桜の下にいる。

そう思った。

そうでなければ良いと願いつつ上ったスネイプの視線の先に舞散る花弁の下佇む少女が目に入った。

「・・・・・

スネイプはほっとしたのと同時に自分の勘など当てにならないものだと苦笑を浮べた。

桜の下にいる幼い恋人はとても綺麗だった。

「・・・・・っ!!」

一瞬の事だった。

ふわりと風が落ちた花弁と咲き誇る花をまい散らせながら視界を遮る。

の後ろに立っていたのは黒衣を纏った男。

もう一人の自分。

スネイプは声を出すことも出来なかった。

そのもう一人の自分が黒衣に包まれた腕を伸ばし

恋人の華奢な身体を引き寄せ

そっとその瞼の上に指を滑らせ

耳元へ何事かを囁いた。

「・・・・・っ!!」

スネイプの声が零れ落ちたのと舞い散った花弁が落ちたのは同時。

        全てが元通りで何かが欠けてしまった瞬間。

そこにはただ盛りを誇る桜が丘の上に在るだけだった。













鬼が来る

鬼が来るよ

薄紅色の向こうから

桜鬼が来る

連れてかれるよ

今は盛りの桜の向こうに

ほら

ほら

佇んでいるだろう

鬼が

鬼が

鬼が













スネイプがホグワーツを去ったのはその春のことである。