視界の端。

教科書とノートの端に黒いモノが在る。

耳を掠めた言葉は細胞に深く深く抉るほどに浸透していく。

「ポッターこの薬品の成分を言いたまえ」

指されたハリーは慌ててガタンと音を立てて立ちいつも通りの答え。

「わかりません」

それもそうだろうと思う。

その薬品は五年生レベルだったから。

仲良くなった寮の先輩から借りた魔法薬学の教科書に載っていたのを知っていたのは

多分この合同クラスでは自分とハーマイオニーだけ。

ロンはいつもの通り『なんだよ、それは』な表情で。

ハーマイオニーは手を挙げて発言を許されるのを待っているのもいつもの通り。

自分は多分机を睨んで堪えてる。

「勉強不足だなポッター。グリフィンドールは10点減点」

そう言っていつも通りその脳を侵す声で朗々と薬品の説明を始めるのだ。

ゆっくりと足音が近づいて遠ざかる。

ローブの端がゆらゆらと視界に入る一瞬。

瞬きすら

呼吸すら

鼓動すら

止めてしまえる瞬間。

死んでしまえる瞬間。

スネイプ先生は自分の横を一瞬で通り抜け教壇へと向かう、いつも通りに。

はあ

息を吐く瞬間。

全てがまた正常に動き出し自分の日常はまたゆっくりと(円滑の反対)に進んでいくのだ。

また自分の中の細胞が染められた事実に気付きながらも為す術も無く。


















もわかっていたなら手を挙げればいいのに」

あっさりと言い放ったグリフィンドールの才媛に苦笑する。

そんなに簡単に言わないでと心は叫ぶ。

「でもスネイプも嫌な奴だよ」

「まったく聞いたか?『このクラスは予習という言葉の意味さえ知らないらしい』だってよ」

「ロン」

「なんだよ、。いい所なんだから・・」

とハーマイオニーと隣にいるハリーの様子から後ろを振り向いてロンは蛇に睨まれた蛙と化した。

「ほう・・。続きは見せてはくれないのかね?」

皮肉な口調でまるでクリームを舐める猫みたいな表情のスネイプ先生はロンに向かっていった。

「ミスター・ウィズリーは教師への口の利き方を知らないらしい、10点減点。ミスター・ポッターもだ」

各10点で済むとほっとしたのも束の間だった。

「ミス・は知っていたのに手を挙げなかったらしいからな。授業に対する意欲がないと見える5点減点」

「な・・・」

俯いていたは言われた言葉に顔を上げたが視線が合うとすぐに俯いた。

「ミス・はついて来なさい」

くるりと背を向けて歩いていくスネイプの後ろにハーマイオニーが待ってくださいと言い募った。

は何で呼ばれるんですかっ!」

「グリフィンドールは硬い友情で結ばれているらしいですな」

これ以上減点されたくなければさっさと寮へ帰るんだなと言われて三人はぐっと詰まる。

は諦めてスネイプの後ろをついて行ったのだった。











「さて、言い訳は何か考え付きましたかな」

椅子に座って向けられる剣呑だろう視線を見れなくて視線を床に落としていたら声がかかる。

「黙って下を向いていれば我輩のお説教から逃げて寮の麗しい友情の友人と再会できるとでも思っているのかね」

ちくちくと刺さるような言葉にじわりと熱いものが込み上げてくる。

「・・・・・違い・・ます」

「ほう、口がきけるとは驚きですな。では我輩の質問の答えがわかっていて答えなかった理由も答えてもらえますかな」

「・・・・・・・・」

何かを言えば涙が零れそうで口を開く事ができなかった。

「簡単すぎて答える気すら起きなかったのかね。それとも我輩がそんなに嫌いか」

苦々しい声色にえ・・と視線を上げる。

スネイプ先生は横を向いて少女が顔を上げたことに気がついていなかった。

「ポッターやウィーズリーとは楽しげに笑うことができるというのに我輩の授業では顔さえ上げないのはそういう理由かね」

吐き捨てるように言う言葉に否定の言葉が溢れ出た。

「違います!・・授業でその・・顔を上げられないのは・・・スネイプ先生を嫌っているからじゃありません!」

必死で告げた言葉とともに目尻がポロリと大粒の涙が零れた。

堪えていたものが堰を切ったように溢れ出てくる。

「授業中ずっと下を向いていたことは謝ります。でも上げれなかったんです」

交わった視線を外して下を向こうとしたらすっと伸ばされた手で阻止される。

頬に触れる手のひらは思っていた以上に温かくて驚くと同時に何故と思う。

「我輩を嫌っていたのではないのかね」

「嫌ってません」

バレたと思った。

即答の言葉に顔に血が上り火照るのがわかった。

「わ・・私、失礼しますっ」

逃げようと踵を返したが無理だった。

スネイプ先生に抱きしめられていたから。

「ス・・・スネイプ先生」

「好きだ」

耳元にやっと届くような小さな声で囁かれた言葉が理解できるまで時間がかかった。

「好きだ・・・。もし我輩を嫌っていないのならこちらを向いてくれないかね」

懇願するような声に細胞は拒否できない。

彼の望むままに、操られるかのように向き合っていた。

「我輩はが好きだ」

しっかりと瞳をあわせて告げられた言葉に信じられなくて首を振る。

「嘘・・・・都合のいい夢、ですよね」

「夢ではない。我輩はお前を愛している」

何度も何度も囁かれて細胞全てが真実だと夢でないと理解できる頃はようやくスネイプの瞳を見つめることが出来た。

「・・・・私も・・スネイプ先生が好きです」

スネイプが浮べた笑みに改めて少女が恋に落ちたのは彼女しか知らない事。

がスネイプ先生の授業中少しだけ積極的に発言できるようになったのはその少し後のことである。