我輩ほど空色の似合わない男もいないだろう。
スネイプはそう自らを評価したのだった。
空色。
気持ち良い晴天の日。
雲ひとつない夏も良いが空色といえば春か秋だ。
雪が消え温かくなった日にスネイプはそう思った。
地下室からは陽光が差し込むわけもなく天気が良いからといって浮かれるほどの馬鹿でもない。
ただ空色といえば清清しい真っ青な夏の色より水彩絵の具をぶちまけた様な春の空を思い浮かべる。
空色はスネイプの中でとても奇異な色だ。
黒を好む性質なので服にそんな頭に花が咲いたような色のものは選ばない。
自分に似合うと思っているわけではないが落ち着くのは黒だ。
しかしスネイプの周りでただ一人その色とリンクして思い出せる少女がいた。
優しく笑う少女。
・という名のマグルの少女を思うとスネイプはいつも自分が立つことは稀な空色の広がっている風景を思い出す。
自らが生まれた時から魔法界はヴォルデモート卿という闇の帝王に暗黒時代とも呼ばれる時代へと塗り込められ、
突如、帝王がたった一歳になるかわからない子供に倒されたのが十数年前。
しかしまたしても帝王は復活して世界は闇へと傾いている。
スネイプは自らが闇に近しい者だと思っている。
流れている純血などは関係なく日の下で生きるのは似合わない、似つかわしくない男だと自分で自覚している。
なのに今、空色の少女を思っている。
きっかけはきっとグリフィンドールの少女だった彼女だ。
リリー・エヴァンス。
彼女がマグルに対して持っていたスネイプの中の悪感情を薄めてくれたから。
だからこうも簡単にマグルの少女は自分の胸に空色の想いを芽吹かせたのだろう。
「空色など我輩には悉く似合わないのだがな」
にこりと不機嫌な魔法薬学の教授に笑いかけていつの間にか空色の種を蒔いて行った。
「全く・・・・」
「、何見てるの?」
少女は友人から声を掛けられやっと振り向いた。
暫く見上げていたせいか首が痛い。
「空見てたの」
空?と見上げる友人の姿にくすくすと笑う。
「だって日本と同じ色なんだもの」
なつかしいなあと仰ぎ見るに肩を竦める。
私は先にホグズミート行ってるよという友人に返事をして空を見上げ続けていた。
「。何を見ているのかね」
「え?」
友人と同じ質問をしてきた男の存在に驚いていた。
地下室辺りでしかスネイプ先生を見たことはなかったから。
「空を・・空を見てました」
「何故かね」
確かに天気は良いがというスネイプに友人にもした答えを返す。
「日本と同じ色なんです」
こんな馬鹿げた答えにスネイプ先生はきっと友人と同じように呆れて立ち去るのだろうと思っていた。
「日本の空もこんな色なのかね」
「・・・・・・先生は呆れないんですか?」
呆れるどころか聞き返してきたスネイプに問う。
きっと馬鹿にされると思っていたのに。
「我輩は日本の空を知らんのでな。大体日や季節によって空は違うだろう」
ますますは驚いた。
確かに埃っぽいときはくすんだ色だし雲の多いときは灰色だったりもする。
でも理解してくれる人がいることが嬉しい。
「そう、私の住んでいた街は都会じゃなくて夏は入道雲、秋は夕焼け、冬は満天の星空が見えるんです。
でも私の一番好きなのは春の空。雲のない水色の絵の具で塗ったみたいな空が大好きなんです」
が調子に乗って喋りすぎたかと思った時スネイプはふむと考えるように呟いた。
「我輩も隣で見ても構わんかね」
「え・・はい、どうぞ」
地面に座り込んで空を見上げていたの隣にすとんとスネイプが腰を下ろした。
空色の空に黒衣の男。
なんだか似合ってないような似合っているような。
暫く経った後スネイプは土を払って立ち上がった。
「我輩はそろそろ仕事に戻らねばならんのだが隣を貸してもらった礼に紅茶でもどうかね」
「・・じゃあ、お言葉に甘えて」
立ち上がろうとして差し出された手取った。
ドクン
「先生は空色ってお好きですか?」
「・・・・ああ、我輩には似合わないがな」
自嘲気味で笑うスネイプにはそうだろうかと思った。
「意外と・・・・」
の声は風に煽られて遮られた。
春のある空色の日の出来事。