細い、細い少女だった。
腕も脚も小さく背は平均より僅かに高いものの華奢な手や肩の薄さに眉を顰めた。
何処ぞの銀幕を彩る役者や雑誌に載るモデルならともかくという位の細さに
同性の友人達は羨ましいと呟き男どもは抜群のスタイルに見惚れていた。
「もう少し食べて太った方がいいのではないかね」
を抱き寄せてその軽さにいつも口にした。
「そんなこと言われても。これでも少し太っちゃったんですよ?」
苦笑混じりに言われても信じられない。
滑らかな頬を手のひらでなぞった。
「こんなに細いと抱き潰してしまいそうだ」
「昨日は大丈夫だったじゃないですか」
僅かに頬を染めて言われた言葉にそうだが、と食い下がる。
この壊れ物のような少女はその細い指をスネイプの頬へと添えた。
「そんなことばかり言う先生は子供を太らせて食べる魔法使いみたいですよ」
そう吐息のように囁いて触れた甘い唇。
暖かい唇に僅かに抱き締める腕に力を込めた。
は食事を殆ど取らなかった。
身体の何処かが悪いのではなかろうかとスネイプが心配するくらいに。
「もうお腹いっぱいです」
僅かにしか食べないに好物を聞いて機会があれば勧めるようにしていた。
「・・・今、なんと?」
その日は少女は軽い風邪を引いたらしいと聞いていた。
後で見舞いにいこうと思っていた矢先、校長に呼び止められた。
「校長・・・悪趣味な冗談は・・・」
「冗談ではないのだよ」
残念じゃが、とまで聞いてなんて最低な冗談だと廊下を走った。
ローブを掻き寄せて翻る裾を捌いて彼女がいるはずの医務室に飛び込んだ。
「スネイプ先生・・・」
泣き腫らしたようなマダム・ポンフリーがいた。
寝台の上に横たわっていたのは細い少女だった。
「校長も冗談が過ぎますな。眠っているだけではないか」
マダム・ポンフリーが首を振り何かを言っていたが無視する。
「眠いのか?早く起きて我輩の下へ帰って来い」
マダム・ポンフリーはいつのまにか退出して医務室にはとスネイプ二人きりとなっていた。
「茶を入れてケーキも用意しよう。お前はいつだって・・・・」
「セブルス・・・」
スネイプの後を追ってきたダンブルドアはマダム・ポンフリーを退出させスネイプに一通の手紙を差し出した。
「彼女からの言付けじゃ」
そういって手渡すと部屋から出ていった。
スネイプは暫し手紙を見つめていたがノロノロと震える手で封を切った。
『スネイプ先生へ
これを読んでるって事は私はもう死んじゃったんだね。
小さい時から長く生きられないって知ってたんだけどとうとう終わりの日が来たみたいです。
ホグワーツに来てよかった。
魔法もたくさん習えたし何より先生と会えたから。
先生はいつも私を細すぎるって言ったけど先生と付き合ってから幸せ太りしたんだよ?
我儘がいえるなら先生ともっと居たかったけど無理みたいです。
先生のこと大好きだったよ。
愛してくれてありがとう。』
短い文だった。
もっと生に執着した文ならよかったのにあまりにも其処にはスネイプが愛した少女の優しさがそのままに文になってあった。
「何故我輩に早くに言わなかった!」
シーツの端を握り締めた。
病気のせいで太れないなんて知らず傷付けていたかもしれない。
あの笑顔の裏で死に怯えていたかもしれない。
たくさんの後悔が押し寄せてくる。
「何故もっと・・・」
スネイプの慟哭を聞いたのは瞼の閉ざされた少女の骸だけだった。