私は石ころ
そこら辺にあるただの変哲のない石
磨いたら光るダイヤモンドとか
代々伝わる由来のある岩石とかじゃなく
ただの石
あの人にはそんな存在
躓いてくれたら気分がイイのに
いつもの変哲もない道で私は寝転んだ。
背中には硬い土の感触。
最近は雨が降らないせいかさらさらとした砂にローブが汚れるのも構わず腕を伸ばした。
道の傍で誰が来るとも知らない場所で石ころになる。
どれくらい経ったであろうか。
眠っていたのかはわからない。
石ころは眠るのだろうか。
ただ寝転がってわずかばかりの時間が、いや大分経ったのかもしれない。
石ころには時間の感覚すらない。
とにかく私はあいも変わらず道端で石ころとなり寝転がっていた。
遠くから誰かが歩いてきた。
誰かは最初はわからなかった。
けれど近づいてきた男の不機嫌さを表す癖になっている眉間の皺とか
私の顔を映し返すくせに何も返してくれない男の瞳とか
薬草の匂いの染み付いたローブとかに石ころである私は震えた。
石ころが震える理由はない。
無機物が震えるわけがない。
無機物となった私は有機物となった名残をまだ僅かにでも残っているのだろうか。
「何をしている」
空から声が降ってきた。
懐かしい声。
愛しかったモノ。
そう。愛しいと思っていた人の声。
無機物は人を愛さないから過去の話。
さっさと私のような石ころに足を止めずに去ってくれればいいのに。
そうすれば私はまた何も考えずにすむ。
無となり存在できる。
石ころは石ころとして存在できるのだ。
「何をしている、と聞いたのだ」
石ころになった私に男はもう一度問いかけた。
石ころなのだから無視すればいいのに。
蹴飛ばしてくれたっていい。
足を止める価値など石ころにはなく声を石ころにかけるヒトなど存在しない。
つまりは無なのだから。
暫く経っても男は去らなかった。
仕方なく石ころの私は口を開く。
石ころにあるまじきことだ。
だが仕方がない。
この男がいると無機物へと到底なれないというのだから。
有機物だった私が。
「石ころになってるんです」
だから何処かへいってと言ったかもしれないし言わなかったかも知れない。
いや多分私は言わなかった。
石ころは願いなど持たないから。
他のものに関わりはしない。
石ころの存在などそんなものだ。
「何故石ころになろうと思ったのかね」
男は呆れたという口調で聞いた。
いやそう思ったのは有機物の私が残っていた証拠でもあろう。
仕方なく私は男が去るまで会話をすることにした。
「愚問ですね。強いて言うなら石ころの存在のほうが存在意義があると思ったんです」
石ころの私は石ころにまだなり切れぬまま答えた。
有機物である瞳を使い男を見ればどこか考えてる。
「存在意義を比べようとする事自体が傲慢だとは思わないのかね」
傲慢。
その一言に有機物の私はそうだろうかという疑問をもった。
「いいえ。私の存在意義は私が確立するものですから傲慢とは言えません」
何より石ころは無ですから比べようはないんです。
「では君は無となりたいのかね」
当たり前の問。
先程以上に愚問だ。
「無でしたよ」
有機物であった私も石ころの私も求められはしない。
認識もされない。
どこが違う?
どこが違うというのだ?
「無とは何かね」
まだこの人は去らないのか。
些か疲れてきて瞼を閉じて答える。
「何も求めず何も求められないこと」
有機物の私は無へと一歩近づく。
「求めていたものは何だったのかね」
貴方がそれを聞くんですか。
おかしさが込み上げたが笑わなかった。
石ころは笑わない。
「躓いてくれる存在です」
そして気がついてくれること。
有機物の私に。
「躓けばいいのかね」
その問になんと答えたのだろうか。
石ころの私は。
何も答えなかったのが正しい気がする。
「とっくに躓いているのだが」
これでいいかね、男はもっていた籠を魔法で消すとその両腕で私を抱き上げた。
「なっ・・・・・何をするんですか!!」
いきなりな行動に有機物の私は驚いた。
「石ころならば黙って拾われてろ」
石ころの私はとても満足げにスネイプ先生の腕に収まっていた。
「寝るならベットの中で石ころになるなら我輩のものに」
それとも石ころはやめるかねと聞かれた。
「石ころの存在意義が先生のモノだったら私の存在意義は?」
石ころがいいなあと思いつつ有機物であった最後の問になるかもと聞いた。
「の存在意義なら我輩の恋人であろう」
嫌かねと聞かれてぶんぶんと首を振る。
「石ころでもお前は我輩のものだ」
ポケットに詰めてくれるんですかと聞けばお守り辺りがいいのではないかと言われた。
私は石ころ
そこら辺にあるただの変哲のない石
磨いたら光るダイヤモンドとか
代々伝わる由来のある岩石とかじゃなく
ただの石
あの人にはそんな存在
躓いて
気がついて
愛してくれたから
私は石ころを廃業したのだけれど