甘いキャラメル

香ばしいクッキー

ふわふわのマシュマロ

可愛らしいぬいぐるみ

自分には何一つとしてとてつもなく似合わないのだけれど














甘いものを好んで食べない自らの部屋にあるキャンディ。

評判の有名菓子店のもので甘い匂いと色とりどりのカラフルな店はあわなかった。

甘いものが好きな少女の笑顔を思うとまあ少し位注目されるのも我慢が出来た。

可愛らしいラッピングと共に店を出るのは勇気がいったが運良く誰にも見つからずに戻ってこれた。

私物としては最重要なものだから鍵の掛けられる机の一番上の引き出しに閉まって鍵を掛ける。

コンコン

「・・・・・・・・・・開いている」

声がいつもより優しくなるのは控えめなノックの主がだからだ。

「失礼します、お仕事終わりました?」

控えめに期待を込めて尋ねる様がいとおしい。

「いや、だが休憩でもしようと考えていたのだ」

そのままくるりと踵を返して引き返しそうな少女を引き止める。

紅茶を用意して温かい湯気を立てるカップとともにコトリと隣に置いたのはキャンディの入った可愛らしい箱。

魔法で出したクッキーを添えて隣に座る。

びくりと身を竦めるが逃げ出さなかった少女に満足げな笑みを向けた。

「甘いモノは好きだろう?」

先月の礼だ。と勧める。

「でも、私お返し用意してませんよ?」

花束貰いましたから。

首を傾げてどうしようと悩む様子は小動物のようだ。

可愛らしいと思ってしまうのは少女が好意に奢る事がないせいだと思う。

そんな時に聞き逃せない一言が耳に入る。

「皆の分もお返し貰っちゃったし・・・」

どうしようかという言葉にスネイプは聞き返す。

「皆とはどういう意味なのかね」

その声に苛つきが混じっていることに気がつかないままは正直に答えた。

「先生が受け取ってくれた後時間が遅かったから帰ったでしょう?」

「ああ」

想いが通じ合えた日だ。

早々に返したくなかったが教師という立場もあって翌日来るように行って寮近くまで送ったのだったか。

「帰ったら先生のチョコレートを作るまでにいくつか作った試作品があってですね」

スネイプは嫌な予感がした。

「それをどうしたのかね」

「え?皆に上げましたけど」

きょとんとした様子に重い溜息をつく。

「それで競って食べた奴らがこぞって礼だといって色々贈ってきたというのだな?」

「はい。殆ど食べたのはフレッドとジョージだったんですけどハーマイオニーから日本の習慣を聞いたみたいで」

ゴソゴソとポケットから出されたのは貰ったというお菓子類。

スネイプは痛くなった頭を押さえるように眉間に指を押し当てた。

ここでを怒るのは間違っている。

釘を刺すべきは自らの恋人に纏わりつく邪魔な者たちだ。

「先生?」

具合悪そうに見えますけど大丈夫ですか?

覗き込んでくる幼い恋人に安心するように笑いかけてスネイプはとある作戦を練っていた。
















ざわざわ

大広間はいつもと違う種類のざわめきに満ちていた。

異様な空気を纏っているのは教員席。

いつもは不機嫌そうなスネイプがあろうことか微かにだがしっかり笑っているのだ。

しかも、ここが重要である。

『膝の上に女生徒を乗っけて!』

この世にありえない光景に静かにだが確実にざわざわという響きは大きくなっている。

「なんでスネイプの膝にが乗ってんだよ」

「別人だろ?」

「夢・・・痛っ・・じゃないよね」

それぞれ思ったことを口に出してるのも気がついてない様子だ。

異様な様子にマグゴガナルが口を開いた(ダンブルドアはその空気の中卵を掬って美味しそうに笑いながら食べていた)。

「ス、スネイプ教授どういうおつもりです?」

(勇者だ!)

ホグワーツの生徒全員、スリザリン生でさえそう思ったのだ。

「ああ、つい、うっかりとしてました。我輩と、ミス・は思いあってましてな」

またうっかり喋ってしまった、という風に抱きしめている腕がいっそうを強く抱きしめた。

「ミス・、本当ですか?」

「・・・・・・はい」

ざわざわ

先程よりいっそう大きくなった喧騒の中スネイプはを抱えて立ち上がった。

「煩くて食事が出来ないので我輩は自室で食事を取らせていただく」

は恥ずかしいのかスネイプの胸に顔を埋めたままだ。

「嘘だー」

「やめてくれよ」

ばたん

音を立てて扉がしまりスネイプと抱えられたの姿が見えなくなった途端嵐のような騒ぎとなった。

「ダンブルドア校長!いいんですか!?」

誰か生徒の一人が叫んだ。

皆同じ思いだった。

グラスを叩いてもないのに大広間はダンブルドアの言葉を待って静寂が包む。

「それはな。愛じゃよ、愛」

納得した者。

呆れた者。

信じたくない者。

夢だと思い込もうとする者。

様々な反応があった。

「バレンタインって凄いわ」

ハーマイオニーが奇しくも呟いた言葉は他の女生徒も思ったらしい。

あの、スネイプを落とせるくらいなのだから。

そして翌年からバレンタインにはチョコレートを贈るという流行が起こったのである。

そういえばスミレ持ってバレンタインにスネイプが走り回っていたわとが友人から聞くのはホワイトデーの翌日の事。

スネイプの作戦通り二人は校長の公認どころかホグワーツ中の公認カップルとなったのである。















「先生・・・」

扉を出た後ようやく顔を上げたの瞳には涙が浮かんでいた。

「嫌、だったのかね」

機嫌の良さそうな表情に影が落ちた。

ふるふる

首を振っては細い腕をスネイプに廻した。

「嬉しいです」

スネイプはその答えに満足しながら自室へと足を速めた。

甘い時間を二人きりで一日過ごすという彼の当初の目標は彼の一生へと期限を延長したのである。