今日はバレンタインか。
魔法界のカレンダーが主張する日付に、日本ではチョコレートが飛び交っているのだろうなとぼんやりと思う。
此方では違うからなあと服装を整えて朝食へと向かう。
ざわざわと騒がしい大広間でいつもと同じ一日が始まるはずだった。
「あー、お腹いっぱい」
、はしたないわよ。と友人に注意されながらも空腹が満たされた幸せに顔が緩む。
そんな至福タイムは梟の羽ばたきと共に終わった。
「あれ、何?」
「すごーい」
大きなざわめきに視線を上げれば荷物を抱えた梟の集団がいた。
「なんだろうね、あれ」
どうやら大量の花束らしい。
しかし誰にだろうと話していたのだが目の前にどさりと置かれてしまえば絶句しかない。
「凄いよ。バレンタインにこんな大きな花束なんて」
友人の声にちらりと視線を向けるも大広間の教師席に座る男の形相にそろりと視線を泳がせた。
殺されるかもしれない。
そう思うほどの視線だった。
視線だけで人が殺せるなら多分もう三人くらい殺した後くらいだろう。
品の良い箔押しのカードには
『愛らしい君へ L』
とだけある。
友人に誰なの?と聞かれるが思い当たらず首を傾げる。
そんな少女の後ろに黒い影。
「ほう、ミス・。素晴らしい贈り物ですな。後で我輩の部屋にくるように」
休日までもスネイプに呼び出される彼女に可哀想という視線が集まるが少女は諦めたように肩を落として頷いていた。
生徒の多くはホグズミートへ出かけたり各々楽しい休日を過ごしているのだろう。
普段ただでさえひと気のない地下室への道に人影はない。
とりあえず貰った薔薇は盥に張った水につけて来た。
華に罪はないだろう。
カードは、見せる必要があるだろうからと一応右ポケットにいれている。
扉を叩けば低い声が返ってきた。
「失礼しまーす」
職員室に入るときもこんなに緊張しなかったよと恐る恐る入れば部屋の主は机の前にいた。
視線は彼の手元にあるレポートに注がれていてこれはスネイプの怒っている度合いの高さを表している。
「あのー、先生?」
近づいて見ても反応なし。
どうやら怒っていると同時に拗ねきっている様子に少女は全く、と溜息を吐いた。
「もうっ!呼んだのはスネイプ先生ですよね?無視するなら帰りますよ」
甘えるように後ろから抱き付いて後ろ頭に擦り擦りと額を押し付ければ肩が揺れた。
反応有り。
もう少しかとローブから最終兵器を取り出した。
綺麗にラッピングされた箱をスネイプが見ているレポートの上に置く。
「なんだね、これは」
流石に気をひかれた様子の言葉に少女はぎゅうと抱きつく腕の力を強くした。
「先生に、です。日本式バレンタインって事で」
大好きですよと日頃は言わない告白を恋人から貰ったスネイプは一転上機嫌となり少女を膝に抱き上げ甘いバレンタインを過ごしたのだった。
後日、マルフォイ家当主が奇病に掛かったらしいと噂が流れたが真相は明らかになっていない。