暗闇を駆ける列車は光の帯と夜を窓に映し出した。

















鏡のように疲れきった人の顔ばかり映す硝子窓は蛍光灯の灯りすら薄暗く思わせる。
私はぼんやりと人の群れの向こう側にある夜を眺めた。
口に含んだチューインガムは口に入れた時の辛さも抜け、ただ人工甘味料の甘さとぺったりとした生暖かさだけ残していた。
見知らぬ土地、見知らぬ人々。
夜をひた走る列車に一人。
夜は不安をなお一層駆り立てるように世界は全く別の顔を見せていた。
時折、映し出された人家の灯にほっとして、けれどその光が後ろへと流れ行き。
この閉鎖された空間から逃げ出せないことに絶望と困惑と闇に溶け出す懐かしさが相混じり飽和していく。









「隣は空いているかね」










人も疎らとなった頃、黒ずくめの男が目の前にいた。
夜の闇から抜け出たような出で立ちだとそのあまり愛想の良くない風貌を見やって思う。
是、と答えれば男は満足したように一つ頷き失礼すると呟いて隣に腰掛けた。
ギシリ、と量産の椅子が音を立てて男は私の数センチ隣にいた。
ぼんやりと夜を見つめる事に飽きた−−−正しくは怖くなったから目を反らしたのだが−−−のでゆるゆると睡魔に身を委ねた。
下車する駅にはまだ時間はある、とそう思いながら。










「そろそろ、起きなくていいのかね」











耳に吹き込むように囁かれた言葉に睡魔を振り切ってゆるゆると瞼を上げれば闇色の男が視界に入った。
どうやら肩を借りてしまっていたらしい。

「すいません・・・・あれ、私」

何かを思い出そうとして、それが何だったのかわからなくなった。
大切な何かだったような気もしたが思い出せないのは仕方がない。

「我輩はセブルス・スネイプ。お前の恋人・・・だろう、

優しく囁かれる声に靄が掛かる思考のまま頷く。
そう、私はスネイプ先生の、恋人なのだ。

「さて、遠出もここらで終いとするか」

スネイプはそう告げるとの肩を抱き寄せて小さく呪文を呟いた。
列車から二人の姿が消えたのはすぐのことでけれど誰も気付きもしなかった。