「愛してるわ。私のお人形さん」
まだ少女のような声は静かな闇の中たった一人の下にしか届かない。
「セブルス。貴方の話を聞かせて頂戴」
寝室に響くもう一つの声は青年を過ぎ始めた声。
「あるところに一人の男がいました・・・・・」
「ヴォルデモート様。あの姫君はいかがされましたか?」
闇の帝王が攫い閉じ込め姿を決して見せようとしない女を口にする者など居ない中、酷薄な笑みを浮べた男が一人笑いながら聞いた。
闇の帝王に平伏し従った魔法界でも名門を誇る純血の男は頭脳明晰であり飛びぬけた美貌と銀の髪に相応しい酷薄さから腹心の部下として頭角を現した男。
「ルシウスか。今はセブルスに寝物語でも強請っているのではないか」
帝王の言葉にルシウスは意外だと片眉を上げた。
「寝物語なら私の方が上手いと思いますが」
こんな軽口をヴォルデモートに言えるのは何人もいないがその後にすぐにルシウスは後悔した。
「・・・・ぐっ・・・」
左腕の闇の印に走った痛みに四肢を折った。
「口を慎むべきだったな」
左腕を掴み床に膝をついて苦悶する気に入りの男を眺めながら彼はその一言だけいって物思いに耽っていた。
「男には愛する姫がいました。幼いときからずっと。しかし彼女はある日消えてしまいました」
「は何処だ」
広い屋敷、広い敷地の最奥の扉から続く部屋に居ると知りながらも問いかけずには居られなかった。
「男は狂いそうなほど心配しました。姫の国はある魔法使いと戦っていたのです」
バタン
ドアを開け放つと寝室にはが寝台で眠っていた。
「男は彼女が魔法使いに攫われたのを知りました。
そして男が旅をしている間に男の国は同じ魔法使いに滅ぼされてしまったのです」
「。起きろ」
ヴォルデモートは優しく声をかけた。壊れ物をそっと扱うように。
「そして姫を捕らえたのも王に刃でとどめを刺したのも同じ男と知ったのです」
「。お前に言わなくてはいけない事があるのだ」
そっと髪を掻き揚げる。
「王子の話はここで終わり。さあこれを飲みなさい、」
は目覚めることはなかった。
セブルスはヴォルデモートの前にしっかりと立った。
震える膝よりも高揚とする気分が頬をいつもより血色をよくした。
「貴方のご命令通りに・・・」
深々と礼をしたスネイプにヴォルデモートは虚ろな瞳で見た。
これで闇の帝王は人には戻る事はない。
ヴォルデモートは柔らかい人を生贄に闇の帝王の地位を捨てることは出来なくなった。
「あの男を愛さなければ共に逃げたのに」
頬を伝っていった雫は誰のものだったのだろう。