白いヴェールの向こうを見透かせる者は隣に立つ者のみだという事を知ったのは苦い過去。
あの笑顔も涙も温かい温もりも全てが奴に向けられてから知った哀しみ。
「いいですよねー花嫁さん」
女の子なら憧れですーとへらへら笑うの持つ雑誌には似たようなドレスを纏った花嫁がいた。
何処がそう違うのかよくわからんなと正直に言えば違いますよと事細かに説明されたのだが。
「これは首元のカッティングが大胆でこっちは裾のふんわりするようなデザインだしこれなんてきっと手編みのレースですよ」
綺麗ーと怒っていたはずがもう笑って再び魅入っている様に呆れを通り越して感心する。
「白いドレスは一般的に女の子の憧れですよー」
正確には白に限りませんけど。
などと言ってくる彼女に正確にはどうなのかねと聞き返した。
「正確には白って限定してるわけでもドレスを着ればいいってものでもなくてですね」
その瞳は何処か遠くない未来を夢見ているかのようにキラキラと輝いていた。
「好きな人と一緒に居て親しい人に祝福されて、これからずっと一緒に居ようって約束できる時だからこそ一番綺麗な自分でいられるのが嬉しいんです」
きっと。
そう言う少女はいいなあ、いいなあと何度も雑誌を眺めては呟いている。
そして我輩は納得した。
あの時の彼女の笑顔に。
見た事の無いくらいの美しさに。
自らの知らない彼女に。
そう、あれは奴だけが知る彼女だったことを。
「それならば・・・着てみるかね」
「へ?」
今ではその苦々しい思いは薄れ若く愚かな自分を笑うことすらできる。
「我輩の為に着てみないか、といったのだが?」
真っ赤になった少女に二段目の引き出しの奥、ずっと以前から用意していた小振りの箱を差し出した。
あと少しで卒業するのドレス姿はさぞ美しいだろうと思えば今から待ち遠しいなどと思う自らがいて。
マリアヴェールの下の笑顔や泣き顔を忘れないのだろうと思った。
「我輩だけのマリアになってくれるか」
乞い、願うような囁きに彼女がなんと返事をしたかはスネイプだけが知っている。